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学生に薦める本 2003年版
越智 敏夫
『戦時期日本の精神史―1931~1945年』
- 鶴見俊輔 岩波書店 2001年
疑う知性、その一。実は最初に藤原新也の『東京漂流』を推薦しようと思っていたら、なんと絶版。日本の出版文化の実情(というか崩壊過程)を見たような気がした。それでもこの鶴見の名著が版を変えて出版され続けていることに希望を見出したい。立派に見える社会の実態はどんなものか。そうした社会がなぜ支持されるのか。またその社会についての「語り方」もいかに硬直しているか。常識の危険性。常識を決めているのはいったい誰か。時代の常識を疑え。
『モハメド・アリとその時代―グローバル・ヒーローの肖像』
- マイク・マークシー(藤永康政訳) 未来社 2001年
疑う知性、その二。日本におけるモハメド・アリの語られ方にいかに大きな問題があるか。公民権運動の語られ方はどうか。本来なら「市民権獲得運動」と訳すべき運動が「公民権運動」などとわけのわからぬ日本語にされたのはなぜか。1960年代のアメリカ社会の異常さと戦った有名人はなぜアリだけだったのか。アラン・パーカーの『ミシシッピー・バーニング』が嘘八百の犯罪的極右映画なのはどういう点においてなのか。権力の意思を疑え。
『セックス神話解体新書』
- 小倉千加子 ちくま文庫 1995年
疑う知性、その三。フェミニズムはどうして「恐いおばさん」と結びつけられて語られるのか。「中ピ連」などの70年代女性解放運動はなぜ罵倒されつづけてきたのか。理由は簡単である。男だけがものごとを語ってきたからだ。そして女性解放に関して男は邪悪な狂信者でありつづけている。男らしさ、女らしさなどというものが「実体として」存在すると信じている者は社会にとっての害悪である。いろいろな「らしさ」がいかに人間を縛っているか。それで得をしているのは誰か。人間の本能を疑え。
『西欧政治思想史―政治とヴィジョン』
- シェルドン・S・ウォーリン 福村出版 1994年
疑う知性、その四。どうして人類は社会を変えつづけてきたのか。理想的な社会を作ろうとして、いかにその理想に裏切られつづけてきたか。社会を変革することの根源的意味は何か。「歴史の終わり」などと言いふらすことは詐欺師以上の意味をもたない。このサイコロのようにぶあつい本(旧版は全五冊だった)のなかには社会変革に対する人間の欲望の軌跡がつまっている。今、目の前にある社会を「良い社会」と賛美することは誰を抑圧することなのか。現在の制度を疑え。