学生に薦める本 2003年版

樋口 光明

『樋口一葉全一冊 「ザ・一葉」』

樋口一葉 第三書館 1986年

『現代語訳・樋口一葉[全5巻]』

松浦理英子他 河出書房新社 1997年

『現代語訳・樋口一葉[全5巻]』

松浦理英子他 河出書房新社 1997年

『現代語訳・樋口一葉[全5巻]』

松浦理英子他 河出書房新社 1997年
新しい五千円札に登場するのを機会に、樋口一葉を読んでみたらいかがだろうか。読点ばかりで句点の少ない独特の文体は、しかしリズミカルで声に出して読みたい日本語である。
とは言っても明治の文体、簡単には読めないだろう。そのためには、現代語訳も出ている。
島田雅彦や藤沢周などが現代語訳に挑戦している。誰がいちばん一葉の雰囲気を出しているか比べるのも面白い。
なお、一葉の雰囲気を知らない学生のためにお勧めの映画がある。「にごりえ」(監督:今井正 1953年)である。これは、"十三夜"、"大つごもり"、"にごりえ"の3作品のオムニバスになっている。明治を知るためにも、極めて優れた映画だから、むしろこちらから観ることを勧めたい。
[OPAC]
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『師団長だった父と私』

樋口大成 学習研究社 2002年
冒頭、吉永小百合の「美しい暦」(監督:森永健次郎 1963年)を父と観に行くシーンがある。戦後民主主義の代表と思っていた石坂洋次郎が、この原作を昭和15年に書いていたということに驚いた。この本の著者も、職業軍人の家庭に育ちながら、重苦しい太平洋戦争中の圧制の時代に、リベラルな学生時代を過ごす。小林信彦の作品にもみられることだが、このような人々が戦後の日本を確かな方向に導いたのだろう。
新藤兼人は、「人は誰でも一篇は小説が書ける」と言っている。これは、どんなに違った人生を生きた人にも、全ての人に感動を与える普遍性があるということなのだろう。
尚これは、第12回北九州市自分史文学賞大賞受賞作である。
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『ぼくと、ぼくらの夏』

樋口有介 文藝春秋 1988年
どうしてもミステリー小説を1冊入れたくて、これを選んだ。犯人は予想通りだし、動機もこれ以上陳腐なものはないというくらい当たり前過ぎるのだが。
では何故そんなものを勧めるのかというと、青春小説として面白いからである。小生意気な高校生が思いっきり気障ったらしいせりふを言うのを、「そうかよしよし」と聞いてあげながら、ときにはこちらが唸ならされたりする。15年前の風俗が目に浮かび、ああ、あの頃はコットンクラブ(監督:フランシス・フォード・コッポラ 1984年)がロードショーにかかり、中森明菜の時代だったのだとしみじみと感じた。なお、これは第6回サントリーミステリー大賞読者賞を受賞している。

『タートル・ストーリー』

樋口千重子 理論社 1997年
これは第1回児童文学ファンタジー大賞佳作受賞作である。しかし、児童文学と言ってばかにしてはいけない。中にはミヒャエル・エンデの「モモ」や、ロアルド・ダールの「チョコレート工場の秘密」、三木卓の「ほろびた国の旅」などという大人もわくわくする名作は山ほどある。
この作品は、少年と不思議な亀との出会いと別れの物語である。人はみな、出会いと別れを経験し、その出来事を通じて成長して行く。その成長はささやかだが、「十五才 学校Ⅳ」(監督:山田洋次 2000年)にもつながるものである。二つの作品は全く違うが、見比べてみて、「学校に行く」ということがどんなことなのか考えて見るのもいいのではないだろうか。
[OPAC]