学生に薦める本 2023年版

石田 康洋(情報センター課)

『AI vs.教科書が読めない子どもたち』

新井紀子 東洋経済新報社 2018

『AIに負けない子どもを育てる』

新井紀子 東洋経済新報社 2019
「AI vs.教科書が読めない子どもたち」は2018年に発売された書籍です。
本書では、AIが東大受験にチャレンジするプロジェクトの結果から導き出した、今後の人間の在り方における考察や提言が語られています。その中で、AIが苦手とすること(=人間にしかできないこと)として「読解力」を挙げ、現代人の読解力低下に対する懸念と、その力を伸ばすことの重要さを説明しています。

人間の脳と同レベルのAIが誕生する時点を表す「シンギュラリティ」という言葉がありますが、本書においてそれは到来しないと述べられています。しかし、本書の発売から現在までの5年の間にも、AIを活用した技術は、オリジナルテキストや画像の生成・チャットボット・自動運転・業務自動化システムなど、急速に進歩しており、私たちの生活やビジネスシーンにも浸透し始めています。これまで人間がやってきたことの一部が既にAIに取って代わろうとしている現状に鑑みると、AIにできないこと、つまり人間が得意とすることとは何か、それは自分に備わっているのか。自身を見つめ直して考えることは全く大袈裟ではなく、非常に重要なことであると感じました。
そして、「読解力」のような、人間側に優位性のある分野を伸ばせるかどうかによって、これからの社会の中で自分自身のアイデンティティを維持して生き抜いていけるかどうかが変わってくるかもしれない。そう考えさせられました。

翌年に発売された「AIに負けない子どもを育てる」では、読解力向上のために必要なこと、個人・親・学校ができること、すでに取り組みを行い、成果を上げている事例などを公開しています。読解力が判定できるテスト「リーディングスキルテスト」の体験版も収録されていますので、腕試しにやってみるのもよいでしょう。仮にAIの話を置いておいたとしても、読解力向上は、相手の伝えたいことを的確に理解できるようになり、コミュニケーション向上にもつながるため、仕事や生活において大きなメリットとなります。

2冊ともベストセラーと呼ばれる有名な書籍ですが、まだ読んだことがない方は、ぜひ手に取って読んでみてください。
[OPAC]
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『我慢して生きるほど人生は長くない』

鈴木裕介 アスコム 2021
みなさんは日常的に我慢を感じているシチュエーションがあるでしょうか。

勉強やスポーツなど自ら進んで行う我慢は良いですが、人間関係やいわゆるSNS疲れなど、周囲の環境によって強いられる我慢は、自己肯定感が得られず、無意識のうちに生きづらさを感じることがあります。これが続くと、「幸せってなんだっけ?」「自分らしい人生とは?」と思い悩んでしまうことも…。

そのような我慢や悩みを抱えている人ほど、本書のタイトルに「刺さる」ものを感じるでしょう。

本書の内容をいきなりすべて実践せずとも、意識しているだけで、少しずつ日々の生き方が変わっていくのではないかと思います。

日々の我慢に苦しんでいる人には、ぜひ本書をきっかけに「自分らしい人生」「自分だけの物語」を見つめなおし、それを取り戻してほしいと願っています。
[OPAC]

『推しの子』

赤坂アカ、横槍メンゴ 集英社 2020
アニメの初回が90分の超拡大版という映画並みのボリュームと内容で放送されたことや、そのアニメと緻密に連動された歌詞やプロモーション戦略によりヒット中の主題歌など、なにかと今話題になっているお話の原作コミックです。興味のある方は読んでみてください。
私も流行りに乗じて途中まで読んでみました。面白いかどうかは人それぞれ(私は面白かった)ですが、少なくとも2、3巻ぐらいまで読んでから判断した方が良さそうです。あと、このお話が掲げている表のテーマとは少し視点を変えて読んでみるのも、興味深いかもしれません。
例えば、この物語は、一見華やかでも現実は厳しい芸能界を舞台に、当事者である芸能人やマネージャー、運営組織など、業界側の立場で話が進んでいきますが、その中でも特に印象的なのが、古き時代の芸能界とは異なる、インターネット社会を背景にした業界の新常識、とりわけSNSに関する描写が各所に出てくる点です。
SNS依存や誹謗中傷、個人情報の漏えいなど、一般的にSNSを利用する私たちの立場から見ても、それに潜む危険性について、改めて考えさせられる場面があるのではないかと思います。
この他にも、作中には随所に現代の社会問題が織り込まれています。その辺りにも注目して読んでみてください。
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※2023年度の推薦本は図書館内のトピックコーナーに配架されています。(一部購入できないものを除く)