学生に薦める本 2026年版

藤田 美幸

『《農都共生ライフ》がひとを変え、地域を変える : 移住・CSA・ローカルベンチャー 〈ウェルビーイングな暮らし〉の実践』

林美香子 寿郎社 2023年
地域活性学を志す皆さんにとって、本書は現場の事象を経営学・マーケティングのフレームワークで構造化するための優れたケーススタディ集です。
本書の最大の強みは、机上の空論にとどまらず、先進的な事例が、鮮明な写真とともに豊富に紹介されている点にあります。視覚的な情報とともに語られる実践者たちの姿は、皆さんが地域課題解決の「構造」を理解する上で、強力な助けとなるはずです。

本書が描き出す実践は、経営学的には「ソーシャル・アントレプレナーシップ(社会起業家精神)」の体現に他なりません。単なる地方移住の記録ではなく、地域固有の未利用資源をいかにして独自の「価値提案」へと変換し、持続可能な事業モデルを構築するかという、極めて戦略的なプロセスが示されています。

1. 地域資源ベースの戦略論
農村に存在する「負の遺産」や「未利用資源」を、都市の潜在的ニーズと合致させることで新たな市場機会を創出するプロセスが、豊富な事例とともに紹介されています。これは、既存の経営資源を再定義し、競争優位を築く戦略論の実践的な適応例といえます。
2. CSAに見る「価値共創」とリレーションシップ・マーケティング
CSA(地域支援型農業)の分析では、生産者と消費者が単なる取引関係を超えた「パートナー」として機能する様子が描かれています。これは、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)における「価値共創」の典型例であり、長期的な信頼関係に基づくリレーションシップ・マーケティングの本質を提示しています。
3. ウェルビーイングを成果指標とする地域経営
従来の経済指標だけでなく、ウェルビーイングを組織や地域の持続可能性を測る重要な指標(KPI)として捉えています。人的資源管理(HRM)の観点からも、個人の自己実現が地域全体のイノベーションを加速させるという相関関係は、今後の地域経営において極めて重要な視点です。

マーケティングや経営戦略の知見を、複雑な地域課題の解決にいかに適用すべきか。本書はその具体的な「解法」を探るための、生きたテキストです。理論が現場でどのように機能し、また現場の事象をいかに論理的に整理できるか。この一冊を通じて、次世代の地域デザインに必要な洞察力を養ってもらえたらと思います。
[OPAC]
※2026年度の推薦本は図書館内のトピックコーナーに配架されています。(一部購入できないものを除く)