学生に薦める本 2001年版

佐々木 寛

『一九八四年』ハヤカワ文庫

ジョージ・オーウェル、新庄哲夫訳 早川書房 1972年
 本書はオーウェルの代表作の一つで、彼が1948年に、下2桁の年号をひっくり返して1984年の近未来を描いたもの。もちろん、1984年はとっくに過ぎてしまったのだが、本書を読むたびにそれはまさに今われわれが生きようとしている世界そのものを描いていることに気がつく。読後の虚脱感から再出発できるかどうかが、この時代に生まれてしまったわれわれに問われている。
[OPAC]

『すばらしい新世界』

オルダス・ハクスリー、村松達雄訳 講談社 1974年
 これも逆説的な「すばらしい世界」を描いたアンチ・ユートピア小説の代表的なもの。人間が人間を製造・管理する時代に生きなければならない現代人の必読文献。読み返すと、かつてより不気味なまでに現代文明のゆくえを描写していることに気がつく。ミシェル・フーコーの『知への意思 性の歴史Ⅰ』とならんで、生命そのものの管理・支配を問題にした「生命政治学」への第一級の入門書。
[OPAC]

『現代における人間と政治』

丸山眞男 『現代政治の思想と行動』未来社 1964年収録
 数多くある著作の中からあえて、論文ひとつ。これも何度読んでも古びないテクスト。タイトルの通り、「現代における人間と政治」の宿命的ともいえる構造を、冷静かつ熱のこもった文章で明らかにしてゆく。「社会科学」とは本来どのようであるべきかを示すともいえるみごとな文章。氏の分析枠組みは、「グローバル化」がキーワードになった現在の世界政治においてこそ、さらに輝きを増している。

『チェルノブイリの祈り』

スヴェトラーナ・アレクシェーヴィッチ 松本妙子訳 岩波書店 1998年
 まず、著者が向けようとする視線のあり方に読者は驚きと感銘を受ける。本書は、1986年のチェルノブイリ原発事故で家族を失い、被曝した地域住民一人一人の肉声である。ひとつのできごとの背後に埋もれてしまう「小さきひとびと」の声。長い期間をかけて彼らの肉声を聴き遂げようとする著者のような行為によってしか、現代世界の実像は浮かび上がってこない。
[OPAC]

『危険社会』

ウルリッヒ・ベック、東廉・伊藤美登里訳 法政大学出版局 1988年
 「専門書」なので少々難解かもしれないが、現代社会学の到達点ともいえるベックの代表作。読みごたえあり。チェルノブイリ原発事故のインパクトから執筆された本書は、現代を産業社会から「危険社会」への移行過程ととらえる。われわれの日常生活や現代社会に生起するあらゆる問題が論じられ、社会学の醍醐味を味わうことができる。本書も、ただ単に学問のための学問ではない、生きるための学問を提示しているといえる。
[OPAC]