学生に薦める本 2009年版

越智 敏夫

2009年はエドガー・アラン・ポー生誕200年だそうで。そんな昔にあんなものを書きまくっていたというのもすごい。昨年推薦したものと一部重複もするけれど、面白いから許してください。ということでちょっと安直企画、ポー関連5種、7冊。

『ポー詩集―対訳』

ポー 岩波書店 1997年
 ポーは詩人である(きっぱり)。その対訳詩集。
 人間なら本書のなかの「大鴉」は必ず読んでおくべきだと思う。この詩はその大量のオマージュやパロディはもちろんのこと、ある系列の文芸表現の始祖(鳥)。たとえば一昨年に紹介した Neil Gaiman の "Coraline" にもオマージュ・シーンが登場する。また竹内銃一郎の『あの大鴉、さえも』(而立書房:絶版、惨!)などもすばらしい末裔のひとつ。ほかにもいろいろ。ただしルー・リードの "The Raven" は聴かなくてもいいかなあ。彼の場合、もっと良い作品は他にあるし。
 ついでにいうとハードコア・プロレスの教祖、ECWのレイヴェン(実はファンでした)のリングネームもこの詩に由来(してると思う、たぶん)。彼のマイクアピールの最後はいつも Quoth the Raven, Nevermore! だったし。ついでのついでにいうとレイヴェンのライバル・レスラー、サンドマンはE.T.A.ホフマンの「砂男」に由来(してると思う、たぶん)。ホフマンはドイツ人だけど、ホラー小説家としてはポーの先達ですね。興味のある人は『ホフマン短篇集』(岩波文庫:これも絶版、惨!) でどうぞ。
 ついでのついでのついで。ポーが愛した街、ボルチモアのNFLチーム名もこの詩から。だからチームマスコットも3羽のカラス。名前はエドガ-とアランとポ-だそうです。強いか弱いか、わからん名前だなあ。でも2000年、スーパーボウル制覇……などと説明すればするほど馬鹿みたいな話になってくるけど、オリジナルのほうの詩は英文、和文両方で読んでおいても絶対に損はない。
[OPAC]

『黒猫・アッシャー家の崩壊:ポー短編集1 ゴシック編』新潮文庫

ポー 新潮社 2009年

『モルグ街の殺人・黄金虫:ポー短編集2 ミステリ編』

ポー 新潮社 2009年
 この書を読めば
 どうなるものか
 危ぶむなかれ
 危ぶめば道はなし
 読み出せばその一読が道となり
 その一読が道となる
 迷わず読めよ
 読めばわかるさ
[OPAC]
[OPAC]

『エドガ-・アラン・ポ-の世紀 生誕200周年記念必携』

八木敏雄・巽孝之編 研究社 2009年
研究書としてはこれがいいのかなあ。なにせ「日本ポー学会が総力を結集」だそうです。できたてほやほやの本。これを読んだうえで、さらに時間があったら萩尾望都『ポーの一族』も読んでみてください。なぜあそこまで騒がれるかは、このポー研究と対比するとよくわかると思う。戦後マンガ史をつくった作品のひとつだし。ただ、あっちのエドガーやアラン(とメリーベル)というキャラをどう思うかは人それぞれだろうけれど。ちなみに私は嫌いです。「パーの一族」とか「トンマの心臓」とか揶揄してたしなあ。あの一連の発言のせいで高校の同じクラスの女子学生に嫌われたんだろうなあ。別に反省もしてないし、嫌われた理由は他にもあるだろうけれど。
[OPAC]

『孤島の鬼』創元推理文庫

江戸川乱歩 東京創元社 1987年
こじつけ、その1。これは本家アラン・ポーに勝るとも劣らない乱歩の怪異譚。これも恐い。「変な小説」というジャンルがあれば、けっこう上位にいきそう。人によっては乱歩の最高作と評す。ちなみにもうひとつ収録されている「猟奇の果」は読まなくていいです。でも乱歩でさえ、このように成功と失敗があると思うと気も楽になるか。ちなみに本作、光文社文庫版のほうでは「不適切な表現」が改訂されているそうです。なんでそんなことするかなあ。よりによって乱歩を。せっかく去年、ポーの本を光文社版で紹介したのに。
[OPAC]

『不思議の国のアリス』

ルイス・キャロル スクァイアマガジンジャパン 2006年

『鏡の国のアリス』

ルイス・キャロル スクァイアマガジンジャパン 2006年
こじつけ、その2。ポーといえばGOTH、GOTHといえばLOLIであります。ということで、この絵本。異端のチェコ人アニメーター、ヤン・シュヴァンクマイエルが全編イラストを書き下ろし。街なかの本屋では手に取るのがちょっと恥ずかしいこの本も、大学の図書館では堂々と読める(かなあ?)。これはキャロルへの、というよりもそのオリジナルイラストを描いたジョン・テニエルへのオマージュというか、ライバル心の発露というか。でもこういう執着は良。シュバンクマイエルは2冊の『アリス』について、この「文明の根幹をなす本」を読むことによって「革命的にロマンチックな子どもたちが幾多の世代にわたって『教育』されてきた」と評している。さらには「『子ども向けの芸術』などというものは、商売上のペテンに過ぎません」とも。ここはちょっと感動してしまった。
[OPAC]
[OPAC]