学生に薦める本 2005年版

佐々木 寛

『鋼鉄都市』

I.アシモフ 早川書房 1979年
わたしが小学生の時、学校の通学路を帰りながら最後を読みきり、涙がとまらなかった。今だから分かるが、科学技術、人間性、文明の問題について考えるようになったのは、この時代、SF小説をむさぼるように読んだからだ。この本は自分にとって掛け値なしに全身で読書をした最初の記憶と結びついている。
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『特殊および一般相対性理論について』

A.アインシュタイン 白揚社 2004年
わたしが中学生の時、魂をかけて「ハマッタ」ものはアインシュタインだった。本当は、自分の人生の方向を決定づけた、講談社文庫のアインシュタイン『晩年に想う』(1979年)を挙げたかったが、絶版だったので、これを挙げる。今思えば、自分は当時、一人の人間の頭脳(精神)が世界の重みをかかえるその姿に惚れ込んだのだと思う。
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『エミール』上・中・下

J.J.ルソー 岩波書店 1978年
わたしが高校生の時、数学1が分からなくなり、理論物理学者への夢が断たれた。人知れず、学校や教育制度に憎悪の思想を育んでいた高校時代。そのとき、ルソーが現れた。ルソーは、学校の行き帰りの電車の中で、当時日本語で読めるほとんどすべての著作を読んだ。一字一句を味わうように、ため息をつきながら、読み進めるのがもったいないと思いながら、時に涙しながら、いつかこんなスゴイ本が書ければ死んでもいいと思いながら。そんな読書は後にも先にもこの時しかなかった。
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『自由からの逃走』

E.フロム 東京創元社 1962年
大学学部時代、この本はゼミナールの課題テキストだった。しかしひとたび読みはじめると、我を忘れた。たしか読み終わったのは自分の部屋で、いつの間にか雀の鳴き声がして朝になっていた。この読書体験は決定的だった。人間の内面と社会や歴史とを串刺しにして透視するその「知性」の凄みに陶酔した。これで社会科学の快楽を知ってしまった。自分が研究者になる最初の動機を与えてくれた本だったように思う。
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『暴力について―共和国の危機』

H.アーレント みすず書房 2000年
大学院時代、平和や暴力の問題をどのように科学(学問)として成立させることができるのか、そればかり考えていた。アーレントの思想は、自分にとって啓示のようであり、文字通り「腑に落ちる」ものだった。アーレントをしっかり読んだのは、大学院に行ってからだ。『人間の条件』(筑摩書房 1994年)は、これまでの自分の思考を体系的にたどるようでもあり、古い親友に会ったようなよろこびを感じた。この本は今でも自分の思考の土台に根をはっている。
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