学生に薦める本 2011年版

山下 功

「物事の本質を見抜くための12冊」



 情報通信技術の発達によって、我々一般市民は様々な情報を容易に入手可能になった。ここで我々が問われることは、大量の情報をどのように整理・解釈し、どのような選択をし、どのようにしてそれを行動に移すかということである。

 我々が適切な行動をとるためには、物事の本質を見抜くことができる能力を養うことが重要である。そのような観点で、以下の12冊を選んだ。但し、決して鵜呑みにしないでほしい。

『ねこ』

岩合光昭編 クレヴィス 2010年
 動物写真界で「猫写真」というジャンルを開拓した岩合氏の写真集から、今年2月まで万代島美術館で開催された展覧会の図録を挙げた。

 自宅に「日本の猫」というカレンダーを毎年飾っているが、全く飽きない。それは、岩合氏の撮る猫たちが、巷に溢れる猫写真のように「かわいいだけ」ではなく、人間のように表情豊かであるからである。
[OPAC]

『作家と猫のものがたり』

yom yom編集部編 新潮社 2010年
岩合氏の猫写真と比べると明らかに劣っているが、飼い主の猫に対する愛情が伝わってくるのが魅力的である。女性作家10人による文章も秀逸。
[OPAC]

『山口晃作品集』

山口晃著 東京大学出版会 2004年

『山口晃が描く東京風景 本郷東大界隈』

山口晃著 東京大学出版会 2006年
 江戸時代と現代が融合した細密画で有名な山口晃氏の画集より2冊。作品で描かれた様々な風刺を読み取ってほしい。
[OPAC]
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『効率が10倍アップする新・知的生産術: 自分をグーグル化する方法』

勝間和代著 ダイヤモンド社 2007年

『しがみつかない生き方:ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール』

香山リカ著 幻冬舎 2009年

『勝間さん、努力で幸せになれますか』

勝間和代,香山リカ著 朝日新聞出版 2010年
 マスコミによる露出によって勝間氏の仕事術は世間の注目を浴び、それを模倣する人たちが「カツマー」と呼ばれるほどの社会現象を生みだした。『効率が10倍...』は、勝間氏の仕事術を紹介したハウツー本のうちの一冊である。

 そのような「カツマー」に対する香山氏の反論が『しがみつかない生き方...』であり、それを受けての両氏の対談が収められた『勝間さん...』では、実際の勝間氏とマスコミへ露出した勝間氏との間に相違があることが語られている。

 勝間氏の虚像に憧れていた「カツマー」の多くは、勝間氏と同じ電子機器を所有し、勝間氏が読んだ本を買い、勝間氏と同様に自転車通勤するなど、表層だけを模倣しているに過ぎず、仕事術の本質を理解していなかったのではないだろうか
[OPAC]
[OPAC]
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『人生には何ひとつ無駄なものはない』

遠藤周作著;鈴木秀子監修 朝日新聞社 2005年
 私は幼稚園の暗い礼拝堂やつまらない神様の話が原因でキリスト教が嫌いになり、大学受験の際もキリスト教の大学を全く受験しないほどの徹底ぶりであった。しかしながら、クリスチャンである遠藤氏の言葉はなぜか心にしみたのである。

 この本は遠藤氏の様々な著作から選び出した文章を集めたものである。この本を読んでみて興味を持ったならば、次にその著作を読んでみると良いだろう。
[OPAC]

『かもめのジョナサン』

リチャード・バック著;五木寛之訳 新潮社 1977年
オウム真理教による数々の犯罪が明らかになった頃、ある教団幹部が愛読していたことで有名になった本。

 純粋に一つの物事に取り組むことは、果たして良いことなのだろうか。日頃の行動の中で手段と目的を取り違えていないだろうか。そのようなことを考えさせられる。
[OPAC]

『日本の文化力が世界を幸せにする』

日下公人,呉善花著 PHP研究所 2004年
 韓国・済州島生まれの親日家である呉氏と、経済評論家である日下氏の対談集。呉氏が日本を賛美するのに対して、日下氏がその特質を一般化しようとしていることが対照的である。両氏の他の著作や、他氏の著作とも比較しながら、この本の内容への賛否を考えてほしい。
[OPAC]

『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』

佐藤 優著 新潮社 2005年
 昨年、厚生労働省の事件が契機となり、検察による国策捜査の存在を誰もが知ることとなった。この本は、ロシア担当の外務ノンキャリア官僚であった佐藤氏がいわゆる「鈴木宗男氏事件」で収監されていたときの獄中手記である。並の刑事小説よりも迫力がある。
[OPAC]

『松原正全集 第一卷「この世が舞臺 增補版」』

松原正著 圭書房 2010年
私が松原邸を訪問したときの話題は、クラシック音楽やオーディオ、そしてパソコンであり、松原氏の研究領域であるシェイクスピアや評論についての議論をした覚えがない。しかしながら、この本を読んでいると、松原氏と過ごした時間を思い出さずにはいられないのである。

 この本は『人間通になる読書術 賢者の毒を飲め、愚者の蜜を吐け』(徳間書店, 1982.1)の改題・増補版であるが、『あらすじで読む...』のような在り来たりの読書案内とは一線を画するものである。

 旧字、旧仮名遣いで表記されているので読みにくいと感じるだろうが、文法は現代文であるし、各話が完結しているので、興味のあるところから読むことを薦めたい。じっくり読んで、物事の本質を見抜くことができる人間になってほしい。
[OPAC]