学生に薦める本 2024年版

堀川 祐里

 今年度の学生に薦める資料は、3つのテーマから推薦したいと思います。今年新しく紹介するのは、「家族を持つこと」を再考するための書籍やDVD、そして、昨年度から引き続き、「性」に関する書籍、最後に「ちょっと一息」出来る書籍です。

『産まなくても、育てられます : 不妊治療を超えて、特別養子縁組へ』

後藤絵里 講談社 2016

『そして父になる』(DVD)

是枝裕和 フジテレビジョン 2013

『万引き家族』(DVD)

是枝裕和 フジテレビジョン 2018

『透明なゆりかご』(DVD)

安達奈緒子脚本 NHKエンタープライズ 2019

『透明なゆりかご : 産婦人科医院看護師見習い日記』(第1巻~第9巻)

沖田×華 講談社 2015
テーマ① 家族を持つこと

 家族とはなにか、なんて考えたことはありますか?例えば看護師になるために勉強している学生たちには、授業に「家族関係論」という科目があったりしますが、本学ではカリキュラムに組み込まれていません。なので、みなさんは改めて家族について学ぶことがありませんね。でも、社会問題を考えるのには、家族とは何か改めて考えておくことが実は必要ですし、その学びはいずれみなさんが社会に出ていくにあたり重要な知識になるでしょう。ここでは家族について考えるきっかけとなるようないくつかの資料を紹介したいと思います。

◆後藤 絵里(2016)『産まなくても、育てられます 不妊治療を超えて、特別養子縁組へ (健康ライブラリー)』講談社。
 タイトルを見て、何か引っ掛かりを覚えた人は、何が自分の中の引っ掛かりかを考えてみてもらえたらと思います。
 その引っ掛かりは、おそらく「産まなくても」なんてあり得ない、自分が産んだ(血のつながった)子どもが、自分の子どもでしょ?という思いだったり、あるいは、「育てられます」なんて軽く言うけど、子育てなんてそんな簡単なもんじゃないという思いだったり、きっといろいろあり得ます。でも、もしもちょっとでもこのタイトルに引っ掛かったら学び時、家族を持つということについて、世の中にはどんな課題があるのか、考える機会をつくってほしいと思います。
 世の中には、子どもを育てたいと願っても、どうしても出産をする、ないし血のつながった子どもを持つことが出来ない人がいて、一方で、さまざまな要因で、血のつながった親には育ててもらえない状況にある子どもがいます。
家族を持つことを改めて考える一冊です。

◆<DVD>『そして父になる』監督:是枝裕和、出演:福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキーほか、2013年
◆<DVD>『万引き家族』監督:是枝裕和、出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、樹木希林ほか、2018年
 家族のかたちを考える、というテーマでこれまで何作もの作品を生み出した是枝裕和監督ですが、私が特にいろいろ考えさせられたのは、この2作品です。
 どちらも血のつながりについて考えさせられる作品なのですが、一緒に過ごした時間が家族を形成していく、というのは、家族の多様性を考える時期に至っている現代日本において、とても重要な概念に思えます。
 自分が持っている「家族」について当たり前を疑ってみませんか? 

◆<DVD>『透明なゆりかご』脚本:安達奈緒子、出演:清原果耶、瀬戸康史ほか、2019年
 <漫画> 沖田×華(2015)『透明なゆりかご~産婦人科医院看護師見習い日記~』講談社。
上記2つのお薦め映画は、家族のかたちに焦点が当てられていますが、こちらは、改めて生命が誕生するということをテーマにしています。
 ドラマ版の初回はNHKで2018年に放映されましたが、その後、何度も再放送が行われている作品です。私は再放送で2回くらい視聴しました。
少子化対策について関心を持っている学生のみなさんは多いと思うのですが、改めて、1つ1つの家族に生まれてくる赤ちゃん、もっと言えば、出産に焦点を当てると、少子化対策とは数だけの議論をしていて良いのか、と考えさせられます。安全に出産することは現代日本においても未だ課題があるのです。そして、その新しい命が無事に大人になるまで健康に育てられるかにも大きな課題があります。
 また、主人公に注目すれば、彼女自身の個性・特性との向き合い方や成長についての物語でもあります。彼女の親との関係性や、日本における教育や子育て環境についての批判でもあるように思います。 
 このドラマは、スキマ時間にさくっと、というよりは、心の準備をして腰を据えて観てほしい作品です。
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『「日本に性教育はなかった」と言う前に : ブームとバッシングのあいだで考える』

堀川修平 柏書房 2023

『3万人の大学生が学んだ恋愛で一番大切な"性"のはなし』

村瀬幸浩 KADOKAWA 2020

『シリーズ大学生の学びをつくる ハタチまでに知っておきたい性のこと』

橋本紀子, 田代美江子, 関口久志編 大月書店 2017

『検証 : 七生養護学校事件 : 性教育攻撃と教員大量処分の真実』

金崎満 群青社 2005

『性教育裁判 : 七生養護学校事件が残したもの』

児玉勇二 岩波ブックレット no.765 2009

『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】 科学的根拠に基づいたアプローチ』

ユネスコ編(浅井春夫/艮香織/田代美江子/福田和子/渡辺大輔 訳) 明石書店 2020
テーマ② 性

 今年度の学生に薦める資料は、3つのテーマから推薦したいと思います。今年新しく紹介するのは、「家族を持つこと」を再考するための書籍やDVD、そして、昨年度から引き続き、「性」に関する書籍、最後に「ちょっと一息」出来る書籍です。
 みなさんは3月8日が何の日か知っていますか?答えは国際女性デーです。2021年の国際女性デー、日本では「生理の貧困」が話題になりました。昨年まで書籍を紹介していた「貧困」というテーマにも関連しますが、貧困のために、月経用のナプキンが買えない女性がいることが問題視されたのです。海外に倣って、日本でも地方自治体や教育機関等で月経用ナプキンの無料配布が始まることになりました。本学でも、新潟市から提供を受けた月経用ナプキンの配布がおこなわれていましたね。また、震災のたびに話題になりますが、2024年1月1日の能登半島地震の避難所においても、月経用ナプキンの配給の方法が問題視されています。
 今、学生生活を送るみなさんにとって、ジェンダーはとても身近な言葉になっていると思います。ただし、ほんの20年前の日本では、ジェンダーやセクシュアリティに関わるテーマは大いなるバッシングを受けていたのであり、ある意味でとても勇気のある人しか勉強しない学問であったことをみなさんは知っているでしょうか。
 性教育には度重なるバッシングがありましたが、特に2000年代の初めは、ジェンダーについての研究や、性について学ぶ機会である性教育に対して激しいバッシングがありました。様々な人々の手で育てられつつあった多様な性教育の実践は、政治的な介入から、ぱたりとおこなうことが出来なくなってしまいました。それから現在までの約20年間に、グローバル視点からみれば性教育は大きな発展を遂げましたが、我々日本の性教育はその大きな発展を後ろから必死で追いかけています。日本の性教育をけん引する人たちのご尽力は心から尊敬されるべきものですが、現在のところ、日本の全ての人が性教育を応援してくれる状況にはたどり着いていません。
 性について学ぶことは、人権について学ぶことだと私は考えます。 性に関する安心や安全が保障されることは、人間に与えられている平等な権利だと思います。みなさんには大学生になったこの機会に性について学び、そこから人権について考えてみてほしいと思います。性教育は何歳からでも遅くはありません。
 ここではそのきっかけになりそうな書籍たちをご紹介しましょう。


◆堀川修平(2023)『「日本に性教育はなかった」と言う前に ブームとバッシングのあいだで考える』柏書房。
 「教師になるわけでもないし、第一、性教育を勉強するなんて恥ずかしい」と思ったあなた、また、「性教育なんて、Youtubeで十分じゃん」と思っているあなたにも是非手に取ってほしい1冊です。
 著者は教育学博士の学位を持つ研究者ですが、本書の最初にわかるのは、性教育の歴史を読み解く原風景に、著者の幼少期の苦悩があることです。なので、興味本位でなんとなく手を取ったとしても、まずその第1章にぐっと引き込まれてしまうと思います。
 第2章では、性教育とは何なのかを、初学者にとっては本当に分かりやすく、研究者としての専門的な視点から科学的にかつ明快に説明してくれます。もし、そもそもなんとなく性教育なんて「今さら恥ずかしい」とか、「一から学ぶのは難しい」と思って二の足を踏んでいる人がいれば、まず第2章を気軽な気持ちで目を通してほしい本です。きっと、「意外ととっつきやすい」とか、「自分も性教育の対象者だったんだ」と驚きます。
 本書の中でも、第3章以降の性教育バッシングについての歴史を読むと、もしかすると、今まで自分に性の正しい知識があるのかないのか、よくわからずに戸惑っていた人にとっては、何か自分を許せるきっかけにもなるかもしれません。性教育をきちんと学べなかったのは、その人個人の責任ではなく、日本の教育制度の問題であると知れます。それが分かったら、少し安心するかもしれないし、今からでも性教育を学ぼうと思えるのではないでしょうか。性教育は生涯にわたって必要なものだから、いつからだって遅くないと勇気を持てます。
 「紀伊國屋じんぶん大賞 2024 読者と選ぶ人文書ベスト 30」で23位になった魅力あふれる書籍。性教育になんとなくもやもやしていたあなたに、今最もおすすめの1冊です。

◆村瀬幸浩(2020)『3万人の大学生が学んだ 恋愛で一番大切な“性”のはなし』KADOKAWA。
 恋愛について、性教育の立場から考えられた書籍です。著者は一橋大学、津田塾大学等の講師を務めた村瀬幸浩先生。私は大学生のときに村瀬先生の講演を拝聴して、「性教育を学びたい!」とい思いました。恋愛ってどんなものか、村瀬先生が大学でおこなった講義の内容をベースに、大学生の声などもたくさん収録された読みやすい1冊です。私が学生時代に読んだ、村瀬幸浩(2006年)『恋人とつくる明日 育て合う安心と信頼のための9章』(十月舎)に再編集・追加取材がおこなわれ、新しく出版された本です。

◆橋本紀子・田代美江子・関口久志(2017)『大学生の学びをつくる ハタチまでに知っておきたい性のこと』大月書店。
 今まさに大学生であるみなさんに知っておいてほしい、性の基礎知識についてまとめられた1冊です。小学生や中学生で習ったようでも、意外に知らない月経や射精などの身体のしくみ、性の多様性、また、デートDVなどの大学生にも起こりうるトラブルなど、大学生が知っておかなければいけない性の基礎知識について書かれています。是非、性教育の入り口として手に取ってみてください。

◆金崎 満(2005)『検証 七生養護学校事件 性教育攻撃と教員大量処分の真実』群青社。
◆児玉勇二(2009)『性教育裁判 七生養護学校事件が残したもの』岩波書店(岩波ブックレットNo.765)。
 2000年代の初めには性教育に対するバッシングがあった、と先ほど書きましたが、そのきっかけともいえる事件が、「七生養護学校事件」です。知的障害をもつ子どもを対象とした養護学校で、子どもたちのために作り上げられてきた性教育の実践が、東京都議会議員や東京都教育委員会の不当支配によって壊された事件でした。都議や都教委、東京都、産経新聞社を相手におこなわれたこの裁判は「こころとからだの学習」裁判(「ここから」裁判)とも呼ばれ、原告側(七生養護学校教員など)の勝訴が確定したのは2013年のことです。バッシングはどのように生まれたのか、政治的介入によって、教育にどんな影響があったのか、初学者にもわかりやすく解説されています。

◆ユネスコ編(浅井春夫/艮香織/田代美江子/福田和子/渡辺大輔 訳)(2020)『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】 科学的根拠に基づいたアプローチ』明石書店。
 2009年にユネスコ等の国際機関から「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の初版が発表されました。日本で暮らす人の多くがイメージするような狭い意味での性教育ではない「包括的性教育」や「セクシュアリティ教育」の必要性について理解できる1冊です。みなさんには、是非、国際的なセクシュアリティ教育の水準を知ってほしいと思います。


 性の課題というと、現在の日本ではセクシュアル・マイノリティ(LGBTQIA+などとも表されますが、その表現は当事者から見ると好まれないこともあることを知っていますか?)に関することが筆頭に挙げられるような気がします。近年では、同性婚に関する裁判に進展がありました。ただし、それはもちろんですが、たとえば、そもそも恋愛について考えること(彼氏や彼女は絶対にいなければならないか)、リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関すること(たとえば女性の月経にまつわる健康のこと)、性暴力の問題(フラワーデモを知っていますか?)などなど、ジェンダーについても、セクシュアリティについても、大人になるまでに知っておかなければいけない性に関する知識や考え方はたくさんあるのです。みなさん、是非この機会に改めて性について学んでみてはいかがでしょうか?
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『王様ランキング』(第1巻~第18巻)

十日草輔 KADOKAWA 2019

『ミステリと言う勿れ』(第1巻~第13巻)

田村由美 フラワーコミックスアルファ 2018

『夜は猫といっしょ』(第1巻~第5巻)

キュルZ KADOKAWA 2020

『おでかけ子ザメ』(第1巻~第4巻)

ペンギンボックス KADOKAWA 2022
テーマ③ ちょっと一息

 みなさんは、そもそも本を読むのが得意ですか?私は研究者になった今も、本を読むのはそんなに得意ではありません。私にとって本を読むのは仕事の一部ですので、もちろん本を読みますが、文字を読むのは得意ではないので、本当に時間がかかります。
 そんな時に、「ちょっと一息」パラパラと読むのがマンガです。特に、字が少なくて、絵が可愛らしいものが私の好みですが、今回はそんないくつかのマンガを紹介します。


◆十日 草輔(2019)『王様ランキング』KADOKAWA。
 Amazonなどでは「非力な王子が勇気ある一歩を踏み出す!」と紹介されていますが、もともとはWebマンガで、2021年10月にはフジテレビ系列でアニメ化もされました。オープニングテーマ曲、エンディングテーマ曲からも、注目の高さがうかがい知れ、第1クールはKing Gnu「BOY」(OP)、yama「Oz.」(ED)、第2クールはVaundy「裸の勇者」(OP)、milet
「Flare」(ED)と、このアニメのために書き下ろされた楽曲もとても素晴らしい作品でした。新潟では本当に深夜も深夜に放送されていましたが、私は必死に見ていました。「強さ」とは何か、可愛らしい絵を楽しみながら考えられる一作です。

◆田村 由美(2018)『ミステリと言う勿れ』フラワーコミックスアルファ。
 ドラマ化されたことでさらに注目を集めた本作品ですが、実写化に際して配役や演出をめぐって賛否両論がありました。私も、主人公の久能 整(くのう ととのう)には、「この人!」と思っていた俳優さんがいましたので、その辺はちょっとがっかりした一人です。この作品は、絵の美しさや主人公の可愛らしさが秀でているので、マンガで読むのがお勧めです。謎解きのストーリーの面白さは言うまでもないのですが、私が注目するのはジェンダー(ジェンダー・バイアス)に対する作者の主張です。是非、そのような観点からも一度読んでみてはいかがでしょうか?

◆キュルZ(2020)『夜は猫といっしょ』KADOKAWA。
 ネコ好きはきっと気に入る1冊です。私は猫アレルギーの喘息持ちなので、自分で猫を飼うことは出来ませんが、猫の「キュルガ」がおうちにいたら、毎日楽しいだろうなと思います。とにかく猫の生態の面白さの一言で、私は歳の離れたハトコのまねで、LINEスタンプを購入しました。2022年にはアニメ化もされましたが、このマンガこそ、文字に辟易してしまう人におすすめの一冊です。

◆ペンギンボックス(2022)『おでかけ子ザメ』KADOKAWA。
 みなさん、子ザメちゃんご存じですか?特に、アニメ版の声が最高にかわいい。なので、YouTube版もおススメしますが、ひとまず漫画も手に取ってみてください。優しい世界が広がります。
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※2024年度の推薦本は図書館内のトピックコーナーに配架されています。(一部購入できないものを除く)