学生に薦める本 2008年版

安藤 潤

『戦争の経済学』

ポール・ポースト著,山形浩生訳 バジリコ 2007.11
 戦争や軍事支出が経済に与える影響を、初級レベルの経済学で説明してくれている本です。私の専門だけに、時間に余裕があれば自分で翻訳したかったのですが。我恨学習指導委員之四年間!!
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『結婚の経済学 : 結婚とは人生における最大の投資』

八代尚宏著 二見書房 1993年
 1992年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学・ベッカー教授による結婚の経済学的分析を中心にわかりやすく解説してくれています。たしかに「なるほど」と思わせる部分もなきにしもあらずです。ただ、合理的な経済主体を前提に結婚をこのように分析することに対しては不愉快な思いを抱いたり、怒りを覚える人もいると思います。その「嫌ぁ~な感じ」をぜひ実感して、現代の経済学に批判の目を向けてくれれば幸いです。私も「非婚の経済学」でも出せるよう、なおいっそう研究に勤しみたいと思います。
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『ルポ 貧困大国アメリカ』

堤未果著 岩波新書 2008年
 よく言われるようにアメリカ合衆国の経済格差は日本のそれよりももっとすごいものがあります。「現代アメリカ論」でも講義しますが、その前に一読することをお勧めします。
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『女女格差』

橘木俊詔著 東洋経済新報社 2008年
ここ数年日本ではさまざまな研究者が格差問題を論じています。その中でも著者は格差問題に関する日本を代表する研究者であり、この2、3年だけでも格差に関する著書は単著と共著を合わせ、相当数に上っています。
 本書は女性間の格差に焦点を当て、ベッカーによる『結婚の経済学』や『出生の経済学』などから結婚や労働などさまざまな点から論じたものです。夢少なかりし幼少期を送った私の唯一の夢、それは結婚披露宴をしないことでありました(結婚しないことではない)が、そんな私にとって「第4章 結婚と離婚」の「結婚を望みながらも何らかの理由で結婚に至らない人についても注目」して書かれた「2 結婚しない理由」は、本書の中でも関心をひいた一節です。
 しかし、それ以上に関心を持ったのは「第9章 美人と不美人」です。その「5 まとめ」では「誰を美人と思うかの判断が、個人によって異なるので、美人がどういう人であるかを定義するのは難しいこと」と前置きしつつ、「美人が得か、と問われれば『Yes』である」、「たとえ美しくなく生まれたとしても、悲観することはない」、「容姿のハンディを克服する手段というのは、人間に多く与えられている」と大胆な文章で締めくくられています。
 そもそもベッカーの結婚や出生に関する経済理論は男性の立場でつくられた理論であると批判されていますが、本書も女性間の格差を見るというよりも、分析結果や主張を通して見えてくる、著者も含めた男性とはどのような生き物かという視点で読んだ方が面白いかもしれません。
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