学生に薦める本 2008年版

藤瀬 武彦

『イチローは「天才」ではない』

小川勝著 角川書店 2002年
 今年3月に放送されたあるテレビ番組で京都大学の学生に「最も独創的な人は?」と聞いたところ、そのナンバー1はノーベル賞受賞者や文化人などではなく、野球のイチロー選手でした。
 彼はMLBの84年も前の最多安打記録を更新した天才的バッターです(日本では史上初の200本安打)。極論すれば、小学校3年生のときからほぼ毎日野球しかやったことのない人が最も独創的な人に選ばれたのです。プロ2年目に1軍入りを果たした19歳の彼は、打撃フォームの改造を再三要求したコーチの指示に対して「自分のやり方でやる」ときっぱり拒否しています。会社でいえば、新入社員が部長の指示を拒否したようなものです。これは中日の落合博満監督(現役時代に三冠王を3回獲得)の「オレ流」に似たところがあります。つまり、彼にとってそれは単なる「反抗」ではなく、目的を達成するための「非常識」であるわけで、一般論とは異なる独創的な考え方や行動を貫き通したさまざまな努力の結果が記録更新につながったのではないでしょうか。
 今の日本人は「信念がなくすべて横並び、行動は起こさず、常に指示待ちで、問題は先送り」と悪評する人がいますが、自分もその傾向があると反省する方や、礼儀もなく生意気な若者が多いと思われている管理職の方にも、もちろん、当時のイチロー選手と同年代の学生の皆さんにもお薦めしたい一冊です。ただし、内容は野球やスポーツ科学に関する記載が多いので、これらに興味のない方にとっては、精読するのに努力が必要になります。
[OPAC]