学生に薦める本 2019年版

臼井 陽一郎

『四人の交差点』(新潮クレスト・ブックス)

トンミ キンヌネン 新潮社 2016年
紙の本なのに、もう冒頭から抱きしめたくなる作品。舞台はフィンランド。戦争そして性をめぐる暴力的抑圧構造を通奏低音に、3代に渡る家族の物語がとてもとても美しく紡がれている。冒頭の出産シーンには圧倒される。女性の自由と自律の象徴として描かれる自転車と写真機が、なんともいえずとにかくカッコいい。そして物語の折々に出てくるフィンランドサウナ。死ぬまでにいちど、入ってみたいとおもう。
[OPAC]

『宝島』

真藤 順丈 講談社 2018年
550ページの大著だが、一気に読んだ。片時もページから目が離せなかった。第二次大戦後の沖縄。日本ではない沖縄。米軍に支配されていた沖縄。大和にはずっと支配され続けていた沖縄。その沖縄で、若者たちの生き様が鮮血あざやかに写し取られている。米兵を襲い殴り倒す者たち。米軍基地に忍び込みモノを盗んで貧しい人々に配る者たち。そんな“英雄”たちの物語が、史実に即して沖縄言葉で紡がれていく。いまだ植民地支配を続けている日本の現在に生きる若者たちにとって、まさに眼の覚める一冊ではないだろうか。
[OPAC]

『Red』

島本理生 中公文庫 2017年
「夢は27歳までに結婚することです」と語るすべての女子学生に本書を送ります。島本理生は女性が埋め込まれた間接的暴力の構造をもののみごとにエンターテイメントストーリーの舞台へ変換してしまう。まあ、そうした暴力の構造という真の現実を教えていたはずの教員が、実はそんな学生たちからサファリパークの物珍しい動物として愛でられていた、というのがことの実態なのかもしれんのですけど、なんか悔しいから、本書を推薦します。
[OPAC]

『そこのみにて光輝く』

佐藤泰志 河出文庫 2011年
村上春樹は神戸を、中上健次は新宮を、そして佐藤泰志は函館を、永遠の神話的物語の舞台に仕立て上げた。それぞれ地名にはひとことも触れずに。それはつまり、フォークナーにとってのヨクナパトーファでもある。さて、函館。サムライ部落という貧困地帯が存在したことを、本書で知った。その部落に残った最後の一軒、公営住宅への移転を拒み続けるその家族に、スト破りをしたひとりの青年がふとしたことから出会い、物語が始まる。映画化されている。なかなかに良かったけど、ストーリーが変えられていた。やっぱり原作が良い。
[OPAC]

『ザ・ロード』

コーマック・マッカーシー ハヤカワepi文庫 2010年
この世に生まれ字が読めるようになった以上、本書は読んでおきたい。まさに現代文学最高峰の作品。黒原敏行の訳がもうたまらなく素晴らしい。ため息の連続。世界のリアルを認識するのに、文学というジャンルに優るものはない。そう確信させる一冊。
[OPAC]

『あゝ、荒野(特装版)』(DVD)

菅田将暉(出演), ヤン・イクチュン(出演), 岸善幸(監督) バップ 2017年
この作品、原作とはかなり違ってしまってるけど、菅田将暉とヤン・イクチュンの二人の演技がすさまじい。ひとが生きるということの真の意味に出会うことができる、そんな奇跡の作品である。
[OPAC]