学生に薦める本 2019年版

小林 満男

『大村智物語-ノーベル賞への歩み』

馬場錬成 中央公論新社 2015年

 2015年10月5日、テレビで今年のノーベル生理学・医学賞の発表があり、そこで大村智先生の名前をはじめて知った。いかにして夜間高校の教師からノーベル賞を受賞するに至ったのか、その生き方に学ぶことはあまりに多い。ノーベル賞にはほど遠い(?)生活をしている人たちにとっても参考になる内容が詰まっている。
 本書は、“ノーベル賞受賞”にまつわる事項を研究されている馬場錬成先生が2012年に、「大村智 2億人を病魔から守った化学者」という題名で出版された本の普及版として、ノーベル賞受賞の発表後、ただちに出版されている。「新潟出身の明るい女性とお見合い結婚」というページもあり、新潟人としてうれしくなってくる。
 大村智先生が執筆された日経新聞朝刊の「私の履歴書(2016年8月1日~8月31日)」の中で、大村智先生は自分の信条としている言葉として「実践躬行【じっせんきゅうこう】)(口先だけでなく自ら進んで実践する)をあげておられる。本書を読みながら、大村智先生の生き方は「実践躬行」そのもののように感じられた。
ぜひ一読されたい。
[OPAC]

『二宮金次郎はなぜ薪を背負っているのか? 人口減少社会の成長戦略』

猪瀬直樹 文芸春秋(文春文庫) 2007年
 この文庫本は、2005年4月に文義春秋刊の単行本『ゼロ成長の富国論』に加筆、改題され、2007年に発行されたものである。文庫本が発行された時点から12年も経過しているが、その内容は現在抱えている課題を先取りしており、古さをまったく感じさせない。また二宮金次郎が生きた江戸末期は、近代化前夜の大きな社会の変化が起きている時代である。それにもかかわらず本書の内容は、現代にも通じる、あるいはむしろ時代を超えて何か通底するような考え方や行動であふれているように感じる。
 二宮金次郎が背負っている柴や薪は、他人から頼まれて運搬しているのではない。また自分が暖をとるためでもない。入会地で入手した柴や薪を換金商品として、つまり商人あるいは事業家として行動しているのである。
小学校で見かける二宮金次郎の像は、スマホを見ながら教科書(知識)が詰まったリュックサックを背負っている大学生の姿と重なって見えてくる。二宮金次郎を柴・薪を背負って歩いた少年時代で終わりとせずに、本書を最後まで読んで欲しい。「解説」で東大の船曳建夫先生が二宮尊徳の真骨頂を「薪を背負った勤勉な少年と、後半生の神道、儒教、仏教をこき混ぜた理論家とのあいだの、営々とした努力によって実利を生み出した実践家としての姿」にあると述べている。最後まで読み通した読後感はきっと充実したものになるはずである。
 人口減少社会に入った今、ぜひ本書を読んでこれからいかに生きていったらいいのかを考えるきっかけとして欲しい。
[OPAC]

『「超」入門 学問のすすめ』

鈴木博毅 ダイヤモンド社 2013年
 本書のサブタイトルは、「明治維新と現代日本に共通する23のサバイバル戦略」である。サブタイトルから想定されるとおり、“明治維新と現代日本が直面する難題を見比べると、隠れた共通の構造が見えてくる“という構図から本書をあらわしている。そして考える起点として、ひろく知られている福沢諭吉の「学問のすすめ」に着目しているのである。明治の時代に、新時代を切り拓こうとする日本人が夢中で読んだ本である「学問のすすめ」を現代人向けの入門書として解説している。
 できるだけ短時間で読んで、一緒に紹介している「学問のすすめ」を続けて読んで欲しい。
[OPAC]

『学問のすすめ』

福沢諭吉(現代語訳:奥野宣之) 致知出版社 2012年
 「学問のすすめ」は多くの出版社から発行されている。どれでもよいが、とにかく読みやすい本という観点から本書を推薦したい。現代語の訳者は148分で読める(20代30代10人平均値)としている。還暦の自分が実際に挑戦したら180分近くかかってしまった。それでも半日もあれば十分に読めるはずである。一緒に紹介している“「超」入門 学問のすすめ“を最初に読んでから本書を読むことをお薦めする。そうすると理解は深まるし、短時間で読めるはずである。
[OPAC]