学生に薦める本 2019年版

野崎 茂(学長)

『学館短歌集』

東京学館新潟高等学校 2007年~
 たまたま東京学館新潟高等学校を訪問した折、廣瀬敬三校長先生より寄贈をいただきました。ミソヒトモジの世界がこんなに豊かな世界であったとは。ここに表された若さ、瑞々しい感性、豊饒な色彩、…。羨ましいなァ。

 かつて「サラダ記念日」(俵万智 1987年刊)という本が短歌の世界に一大旋風を巻き起こしました。30年以上前の古い話になってしまいましたが。それを上回る感動がここにはあります。掲載されている歌は、年始めの宮内庁「歌会始の儀」に招かれ披講された作品をはじめ、文化庁主催「国民文化祭・短歌祭」、日本歌人クラブ「全日本短歌大会」など日本全国の各種短歌大会、コンクールで受賞、入選した佳品の数々。そしてこの歌集は今や第九集を数えるまでになっています。これからもずっと続いて行くことだろうと思います。

 同校がここに至るまでには指導教員の永年に亘る尽力があった由。積み重ねの大切さと教育の力。本学教員もこれを再確認し、一層の努力をして行かなければ。
 第一集~第九集が図書館に備置してあります。皆さんもこの歌集を手に取り、もう一度ほんの数年前を思い出して見ては如何。

 本学にも同校のOB、OGが多数在籍し、こうした華麗な歌の詠み人が交っておられるのでは。そうした特技の持ち主に機会があれば教えていただきたいもの。もっとも私が詠むと狂歌になってしまうのでしょうが。
[OPAC]

『資本主義と闘った男 ―― 宇沢弘文と経済学の世界』

佐々木 実 講談社 2019年
 戦後の日本が生んだ世界的な数理経済学者、ノーベル経済学賞に最も近かった日本人、…。数々の称賛を欲しいままにした経済学の巨人宇沢弘文(1928-2014)の足跡をたどった大冊。

 宇沢弘文は東大理学部で数学を学んだ後、経済・社会問題への関心から経済学に転じ、その論文を評価され米国に招聘されるやK.アロー、P.サミュエルソン、R.ソローの薫陶を受け、あるいは共同研究者となり、M.フリードマン、R.ルーカスと論争を繰り広げ、J.スティグリッツ、G.アカロフ(ちなみにご案内のとおり、ここに名前を挙げた人たちはいずれも米国のノーベル経済学賞受賞者です。)を教え子に持つといった華々しい活躍を演じた後に、1968年突如日本に舞い戻り東大経済学部に身を置きながら今度は主流派経済学に背を向けてしまう。そしてその視点が新たに定まった先は当時の日本の社会問題。自動車公害、水俣、成田空港農民闘争に深く関与し「社会的共通資本」という概念を打ち出し、その研究普及に邁進します。
 真理のあくなき追及のために、例えばマネタリストなど考え方を異にする学派との論争にも積極的に参加し相手方からの尊敬を勝ち取る。また自らの主義主張を貫くための潔く見事な転進。こうした行動を楽々とこなして行く天才ぶりには只々驚かされるばかりです。

 そうそう宇沢弘文は新潟とも縁が深い。東大教授退官後に一時期新潟大学経済学部教授に就任(1989‐94)し、新潟の潟研究などで名高い同大の大熊孝教授(本学澤口晋一教授ともご縁の深い)との共著で「社会的共通資本としての川」という本を出版しております。

 学生諸君には、「騙された」と思って本書を読むことをお薦めします。本書を読むだけで戦後の米英を中心とした経済学派の要点や人脈を知ることが出来ます。現在世界のアカデミーや経済界で活躍している人たちのバックグラウンドを知ることが出来ます。これだけで「経済学史」という講義の単位を得た気持ちになれます。
[OPAC]