学生に薦める本 2022年版

堀川 祐里

 今年度の学生に薦める本は、ふたつのテーマから推薦したいと思います。ひとつは、昨年度から引き続き、「性」に関する書籍たち、もうひとつは、「ちょっと一息」出来る書籍です。

『3万人の大学生が学んだ 恋愛で一番大切な“性”のはなし』

村瀬幸浩 KADOKAWA 2020年

『大学生の学びをつくる ハタチまでに知っておきたい性のこと』

橋本紀子・田代美江子・関口久志 大月書店 2017年

『検証 七生養護学校事件 性教育攻撃と教員大量処分の真実』

金崎満 群青社 2005年

『性教育裁判 七生養護学校事件が残したもの』

児玉勇二 岩波ブックレットNo.765 2009年

『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】 科学的根拠に基づいたアプローチ』

ユネスコ編(浅井春夫/艮香織/田代美江子/福田和子/渡辺大輔 訳) 明石書店 2020年

『気づく 立ちあがる 育てる ―日本の性教育史におけるクィアペダゴジー』

堀川修平 エイデル研究所 2022年
テーマ① 性

 みなさんは3月8日が何の日か知っていますか?答えは国際女性デーです。昨年の国際女性デー、日本では「生理の貧困」が話題になりました。昨年まで書籍を紹介していた「貧困」というテーマにも関連しますが、貧困のために、月経用のナプキンが買えない女性がいることが問題視されたのです。海外に倣って、日本でも地方自治体や教育機関等で月経用ナプキンの無料配布が始まることになりました。本学でも、新潟市から提供を受けた月経用ナプキンの配布がおこなわれていましたね。
 今、学生生活を送るみなさんにとって、ジェンダーはとても身近な言葉になっていると思います。ただし、ほんの20年前の日本では、ジェンダーやセクシュアリティに関わるテーマは大いなるバッシングを受けていたのであり、ある意味でとても勇気のある人しか勉強しない学問であったことをみなさんは知っているでしょうか。
 2000年代の初めは、ジェンダーについての研究や、性について学ぶ機会である性教育に対して激しいバッシングがありました。様々な人々の手で育てられつつあった多様な性教育の実践は、政治的な介入から、ぱたりとおこなうことが出来なくなってしまいました。それから現在までの20年弱の間に、グローバル視点からみれば性教育は大きな発展を遂げましたが、我々日本の性教育はその大きな発展を後ろから必死で追いかけています。日本の性教育をけん引する人たちのご尽力は心から尊敬されるべきものですが、現在のところ、日本の全ての人が性教育を応援してくれる状況にはたどり着いていません。
 性について学ぶことは、人権について学ぶことだと私は考えます。 性に関する安心や安全が保障されることは、人間に与えられている平等な権利だと思います。みなさんには大学生になったこの機会に性について学び、そこから人権について考えてみてほしいと思います。性教育は何歳からでも遅くはありません。
 ここではそのきっかけになりそうな書籍たちをご紹介しましょう。


◆『3万人の大学生が学んだ 恋愛で一番大切な“性”のはなし』
 恋愛について、性教育の立場から考えられた書籍です。著者は一橋大学、津田塾大学等の講師を務めた村瀬幸浩先生。私は大学生のときに村瀬先生の講演を拝聴して、「性教育を学びたい!」とい思いました。恋愛ってどんなものか、村瀬先生が大学でおこなった講義の内容をベースに、大学生の声などもたくさん収録された読みやすい1冊です。私が学生時代に読んだ、村瀬幸浩(2006年)『恋人とつくる明日 育て合う安心と信頼のための9章』(十月舎)に再編集・追加取材がおこなわれ、新しく出版された本です。

◆『大学生の学びをつくる ハタチまでに知っておきたい性のこと』
 今まさに大学生であるみなさんに知っておいてほしい、性の基礎知識についてまとめられた1冊です。小学生や中学生で習ったようでも、意外に知らない月経や射精などの身体のしくみ、性の多様性、また、デートDVなどの大学生にも起こりうるトラブルなど、大学生が知っておかなければいけない性の基礎知識について書かれています。是非、性教育の入り口として手に取ってみてください。

◆『検証 七生養護学校事件 性教育攻撃と教員大量処分の真実』
◆『性教育裁判 七生養護学校事件が残したもの』
 2000年代の初めには性教育に対するバッシングがあった、と先ほど書きましたが、そのきっかけともいえる事件が、「七生養護学校事件」です。知的障害をもつ子どもを対象とした養護学校で、子どもたちのために作り上げられてきた性教育の実践が、東京都議会議員や東京都教育委員会の不当支配によって壊された事件でした。都議や都教委、東京都、産経新聞社を相手におこなわれたこの裁判は「こころとからだの学習」裁判(「ここから」裁判)とも呼ばれ、原告側(七生養護学校教員など)の勝訴が確定したのは2013年のことです。バッシングはどのように生まれたのか、政治的介入によって、教育にどんな影響があったのか、初学者にもわかりやすく解説されています。

◆『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】 科学的根拠に基づいたアプローチ』
 2009年にユネスコ等の国際機関から「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の初版が発表されました。日本で暮らす人の多くがイメージするような狭い意味での性教育ではない「包括的性教育」や「セクシュアリティ教育」の必要性について理解できる1冊です。みなさんには、是非、国際的なセクシュアリティ教育の水準を知ってほしいと思います。

◆『気づく 立ちあがる 育てる ―日本の性教育史におけるクィアペダゴジー』
 性的マイノリティ教育に興味を持ったら、まず読んでみてほしい1冊です。この本の著者は、堀川ゼミでも昨年1度ゲスト講義をしてくださいました。著者はマイノリティを「特別扱い」して正当に取り扱わないのではなく、差別構造そのものを問い直す教育実践がクィアペタゴジーであると主張しています。本書は、内容もさることながら、卒業論文に挑もうとしている学生の中でも、研究というものがまだなんだかわからないみなさんにとって、研究の仕方、とくに論文の構造を学ぶための教科書にもなる書籍です。是非一度読んでみてください!


 性の課題というと、現在の日本ではセクシュアル・マイノリティ(LGBTQIA+などとも表されますが、その表現は当事者から見ると好まれないこともあることを知っていますか?)に関することが筆頭に挙げられるような気がします。近年では、同性婚に関する裁判に進展がありました。ただし、それはもちろんですが、たとえば、そもそも恋愛について考えること(彼氏や彼女は絶対にいなければならないか)、リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関すること(たとえば女性の月経にまつわる健康のこと)、性暴力の問題(フラワーデモを知っていますか?)などなど、ジェンダーについても、セクシュアリティについても、大人になるまでに知っておかなければいけない性に関する知識や考え方はたくさんあるのです。みなさん、是非この機会に改めて性について学んでみてはいかがでしょうか?
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『王様ランキング』(第1巻~第12巻)

十日草輔 KADOKAWA 2019年

『ミステリと言う勿れ』(第1巻~第10巻)

田村由美 フラワーコミックスアルファ 2018年

『夜は猫といっしょ1・2』

キュルZ KADOKAWA 2020年
テーマ② ちょっと一息

 みなさんは、そもそも本を読むのが得意ですか?私は研究者になった今も、本を読むのはそんなに得意ではありません。私にとって本を読むのは仕事の一部ですので、もちろん本を読みますが、文字を読むのは得意ではないので、本当に時間がかかります。
 そんな時に、「ちょっと一息」パラパラと読むのがマンガです。特に、字が少なくて、絵が可愛らしいものが私の好みですが、今回は昨年読んだいくつかのマンガを紹介します。


◆『王様ランキング』(第1巻~第12巻)
 Amazonなどでは「非力な王子が勇気ある一歩を踏み出す!」と紹介されていますが、もともとはWebマンガで、2021年10月にはフジテレビ系列でアニメ化もされました。オープニングテーマ曲、エンディングテーマ曲からも、注目の高さがうかがい知れ、第1クールはKing Gnu「BOY」(OP)、yama「Oz.」(ED)、第2クールはVaundy「裸の勇者」(OP)、milet「Flare」(ED)と、このアニメのために書き下ろされた楽曲もとても素晴らしい作品でした。新潟では本当に深夜も深夜に放送されていましたが、私は必死に見ていました。「強さ」とは何か、可愛らしい絵を楽しみながら考えられる一作です。

◆『ミステリと言う勿れ』(第1巻~第10巻)
 ドラマ化されたことでさらに注目を集めた本作品ですが、実写化に際して配役や演出をめぐって賛否両論がありました。私も、主人公の久能 整(くのう ととのう)には、「この人!」と思っていた俳優さんがいましたので、その辺はちょっとがっかりした一人です。この作品は、絵の美しさや主人公の可愛らしさが秀でているので、マンガで読むのがお勧めです。謎解きのストーリーの面白さは言うまでもないのですが、私が注目するのはジェンダー(ジェンダー・バイアス)に対する作者の主張です。是非、そのような観点からも一度読んでみてはいかがでしょうか?

◆『夜は猫といっしょ1・2』
 ネコ好きはきっと気に入る1冊です。私は猫アレルギーの喘息持ちなので、自分で猫を飼うことは出来ませんが、猫の「キュルガ」がおうちにいたら、毎日楽しいだろうなと思います。とにかく猫の生態の面白さの一言で、私は歳の離れたハトコのまねで、LINEスタンプを購入しました。これこそ、文字に辟易してしまう人におすすめの一冊です。
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