学生に薦める本 2022年版

渡邉 博之(企画推進課)

『昭和経済史』

中村隆英 岩波現代文庫 1986年
 事件や事故には、必ず理由が伴う。歴史も同様だと思う。必ず理由がある。これは訓練だが、常日頃「なぜ、なに」と目の前に起こることに対して考える習慣があって、それを維持できている人は(そんな人に出会えることはなかなかないが)たいていの場合、成功を数多く体験している人である。私もそうなりたいと思っているが、その領域にはなかなかたどり着けていない。
 ここでは、「昭和経済史」の紹介をしたい。もう遠い記憶にはなってしまったが、若いころ日本経済の戦後復興を学んだことは今でも何となく覚えているものの、いざ太平洋戦争前のこととなると、その頃の歴史を経済の面から学んだことは果たしてあったのだろうかと、こちらの記憶はほとんどない。いや、ないことはないか。断言してはいけないのかもしれないが、かなり記憶が薄い。高校の授業でも・・・まあこれは高校日本史の話だが・・・確か明治のさなかで時間切れとなり、大正時代は当然のこと、昭和時代の学びさえ独学となってしまい、授業はそこで終わってしまった。
 私は経済ということばが大好きだ。大学を出て社会人になり、本学職員にたどり着くまでにいろいろな経験を積み重ねてきたつもりだが、振り返ると、すべてはメシを食うために働き、対価としてカネをもらい、そしてまたメシを食う。たまに欲が出て、メシ以外の必要なものを買う。単純にこの繰り返しだったように思う。そう、この繰り返しの積み重ねが、簡単に言えば経済だ。
昭和時代、日本はどんな道を進んできたのだろうか。時の宰相は、日本国民にどのような繰り返しをさせ、その経験を積み重ねさせ、自らはどんな判断をして日本を発展させてきたのだろうか。その歴史を経済の視点から一冊に分かりやすくまとめられたのが、本書である。実に読みやすく、また、読み手にマウントを取るようなエラソーな書き方になっていないこともあるせいか、経済の歴史が気持ちよく、すっと入ってくるように思う。
 さて、本題に入りたい。(え?)
 みなさんは、歴史の「なぜ、なに」をもっと知りたいと思ったことはないだろうか。ここで、大河ドラマ「北条時宗」の話を少ししたい。ドラマでは、和泉元彌が演じた「北条時宗」とその兄である渡部篤郎が演じた「北条時輔」の関係を中心に描かれてあり、兄弟愛があったかと思えば最後には京を追われ・・・今思い出しても、とてもたまらなく、あの印象深いオープニングテーマとともに見入っていた当時の記憶が鮮明によみがえってくる。あの時も「なぜ、なに」であった。鎌倉時代に、本当にそんな歴史があったのだろうかと(大河ドラマには創作も多いようであり本作も同様であるのだが)「なぜ、なに」を解決するために仕事そっちのけでファンサイトのホームページを作った記憶がある。(当時の情報発信は、掲示板や個人ホームページでの発信が主流であり、facebookやtwitterはもちろん、古いといわれるmixiもない時代である)とにかく、当時は夢中になって「なぜ、なに」の欲求を満たしていたように思う。
 さて、本書、昭和経済史の紹介をしたかったのだが、なぜか北条時宗・・・つまり鎌倉時代・・・の話を出してしまった。もはや私の頭の中は私でさえも分からない。「なぜ、なに?」である。
[OPAC]

『スティーブ・ジョブズの再臨』

アラン・デウッチマン著、大谷和利 訳 毎日コミュニケーションズ 2001年
 本書は、米アップル創業者であるスティーブ・ジョブズの生きざまに焦点を当てて書かれている。本書の特徴はというと、スティーブとその取り巻きの人物との会話が生々しく書かれていることから、「時代を変える決断」の臨場感が手に取るように分かるところではないかなと思う。本学図書館には、スティーブにまつわる書籍が何冊かあるが、本書は少し古いので、今の「時価総額世界一企業アップル」ではなく、「倒産寸前アップルコンピュータ」の時代を見ることが出来る。初版は2001年であるから、今からもう20年前に出版されたもの。つまり、この世にiPodやiPhone、iPadはない時代のアップルの話である。(かつてアップルがThink Differentキャンペーンをやっていたが、その最後あたりまでの時代の話だ)

 少し話が脱線するが、皆さんは「組織を壊す人」と会ったことはあるだろうか。学生の皆さんならアルバイト先で少なからず疑問を感じた人はいなかっただろうか。仕事もせずにぺちゃくちゃ世間話をして、上司が出てきたらゴマスリ。“あぁ、こんなことしていて良いのかな・・・給料ドロボー!”なんて思うことは、社会人になるとよくある(?)光景である。しかし、ここでいう「組織を壊す人」は当然そんなレベルの話を言っているのではない。「組織を壊す人」とは、既成概念をひっくり返し、前例主義をものともせず突き進める人。自分が決めたことを周りがどう言おうとも通せる人のことである。スティーブは組織を壊す人だ。良い意味でも、悪い意味でも。本書は、この「組織を壊す人」の会話を手に取るように見ることが出来るのである。

 先に述べたように、アップルは今や時価総額世界一の企業となった。そんな会社にも歴史を遡ると倒産危機が少なからずあった。スティーブはアップルの創業者であるが、取締役会で意見の対立から、アップルを辞める経験をしている。その後、幾人かの経営者を経てアップルは倒産危機となり、その救世主役としてスティーブはアップルに復帰した。復帰後すぐにiMacを発表し、業績も回復し、、、というところまでの話が本書で書かれている。

 人の成功体験を読むのも大いに結構。しかし人は失敗があって初めて成功するものだ。スティーブの人生は、失敗体験がたくさんあった。その経験を読めば、スティーブのように大それたことは出来ないかもしれないけれど参考にできるところは、一つくらいはあるはずだ。失敗体験は成功への宝庫である。

 最後に、この本の副題を紹介したい。
「世界を求めた男の失脚、挫折、そして復活」
わくわくする副題じゃないですか。ぜひ、読んでもらいたい。
[OPAC]