学生に薦める本 1996年版

内山 秀夫

『石光真清の手記』

石光真人編 中央公論社 昭63年
なお本書 は中公文庫版4分冊『城下の人』、『曠野の花』、『望郷の歌』、『誰のため に』でも公刊されている。
「時代的にも、家庭的にも光輝ある年に生まれた」ではじまるこの『手記』は、熊本 士族として明治元年に生まれた石光真清という明治人が、陸軍に進み幼年学校・士官 学校を経てエリート軍人への道を歩きはじめたにもかかわらず、ロシアの脅威を一身 において受けとめようとして陸軍をやめ、主として日露戦争を舞台に帝国日本のため の懸命な貢献を主として黒龍江、松花江での民間秘密活動によって果たす。しかし、 その貢献は国家によって認めるところとはならない。シベリア出兵に際しても、帝国 の密命によってアムールにとぶのだが、それもまた国家による使い捨てである。明治 という時代と国家と個人の関係をこの『手記』で、ぜひ読んでほしい。国家が制度的・ 機構的に整備されてゆく過程で、個人の想いは完全に疎外されてゆく、そのいたまし さは、今日の私たちのあり方を考える上で、熾烈(しれつ)な衝撃を与えるにちがいな い、と思う。

『職業としての学問』

マックス・ウェーバー、尾高邦雄訳 岩波文庫 1980.11
私は疲れて何も手につかなくなると、これを読む。1919年1月、つまり第一次大戦敗 戦後の混迷の時代に、今世紀最大の社会科学者マックス・ウェーバーがミュンヘンで 行った講演である。失望・絶望を一方とし、燃えあがるナショナリズムを他方とする、 その中で、学生・青年にむけてウェーバーが説いたのは、「かれ自信の行為の究極の 意味についてみずから責任を負う」ことがらであった。自分を押し沈めた時に突きと める「精神」のありか、その作業をこそ勇気もて生きること、と私は呼びたいのだ。
[OPAC]

『荒れ野の40年』

ヴァイツゼッカー、永井清彦訳 岩波書店 1986.2
敗戦40周年(1985年)に当って、当時西ドイツの大統領であったヴァイツゼッカーが連 邦議会で行った演説。「人間であろうとする」ことは、現在では間違いなく一大事業 である。それには「過去を心に刻む」ことではじめることができる。この演説は、戦 争をはじめた私たち日本人、そしてその事実を継承している諸君の生きる起点を示し て残すところがないはずだ。
[OPAC]

『鉄砲を捨てた日本人』

ノエル・ベリン、川勝平太 中公文庫 1991.4
16世紀に日本人は鉄砲の大量生産に成功した。それが江戸時代に鉄砲をほとんど放棄 する。このことは、武器の歴史において信じられない事件である。これを《日本の奇 蹟》とする著者の眼は、私たちが単なる歴史的事実として捨て去っていることを、評 価しなおすより所を与えてくれるにちがいない。
[OPAC]

『福翁自伝』

福沢諭吉 岩波書店 1978.10
だまされたと思ってもいいから読んでみてください。「若い」ということの意味が読 み進む間に、こみあげるように迫ってくる、と思います。
[OPAC]