学生に薦める本 1996年版

広瀬 貞三

『自分のなかに歴史をよむ』

阿部謹也 ちくまプリマーブックス
ヨーロッパの鬱蒼とした森を背景に時間と空間を超え、旅行をしているような気分に なる。歴史学者である阿部氏が自分の半生をふりかえり、新しい歴史研究の方法とそ の成果を語る。ヨーロッパ中世の人々の生活が、現代の私たちにもよく理解できる。

『自叙伝・日本脱出記』

大杉栄 岩波文庫
大正時代のアナーキスト大杉栄の思想と行動を一冊に圧縮したもの。しなやかな思想 と優れた行動力の調和が見事にえがかれている。38才で書いた『自叙伝』は現代人に は想像もできぬ振幅の大きさをもっている。「眼の男」とよばれた彼の視線は今も熱 い。

『ラ・ロシュフコー箴言集』

二宮フサ訳 岩波文庫
17世紀のフランス人が書いたこの作品は短い箴言からなっている。どこから読んでも かまわない。年齢と置かれた状況によって、心にしみる言葉は異なるだろう。学生時 代に好きだった言葉は、「沈黙は自分自身を警戒する人にとって最良の安全策である」。

『高熱隧道』

吉村昭 新潮文庫
彼の小説の魅力は、大きな骨格と力強い文体にある。文庫本がでるたびに本を手にす るが、あえて全作品は読まない。至福の時を残しておくためだ。この作品は戦前の黒 部第三発電所建設を題材に、ダム建設に挑む男たちと自然との凄まじい闘いを描く。

『インディアスの破壊についての簡潔な報告』

ラス・カサス著(染田秀藤訳) 岩波文庫
コロンブスの新大陸発見は、人類の歴史に何をもたらしたか。それはスペイン人によ る南北アメリカ大陸の征服と、インディオの殺戳にほかならなかった。これは同時代 の一スペイン人がインディオ蹂躙を告発した書である。近代西洋による異民族支配の 原点。