学生に薦める本 1996年版

區 建英

『魯迅と日本人ーアジアの近代と「個」の思想』

伊藤虎丸 朝日新聞社
魯迅は中国近代文学の生みの親と呼ばれる人物である。彼の「狂人日記」、「阿Q正 伝」、「故郷」などの作品は日本でよく知られている。戦後、かつて日本の学界に大 きな影響を与えていた竹内好は、中華人民共和国の誕生に至った中国の近代を魯迅型 近代に代表させ、それをもって日本型近代を批判する鏡とした。ところが、本書の著 者から見れば、魯迅型近代は中国近代の中でも孤立し、アウトサイダーであった。が、 にもかかわらず、魯迅の提示した問題はまさしく、現在の日本と中国の双方に共通す る課題である。本書で、著者は魯迅を明治期の日本思想界と対話させ、その共有した 意識から主体的な精神を見い出している。

『近代中国の国際的契機』

浜下武志 東京大学出版会
従来、アジア近代史は、近代西欧世界がアジアに与えた衝撃の歴史として説かれてき ている。本書はこういったヨーロッパの対アジア関係にとどまるのではなく、東アジ アと中国、東南アジアと中国の関係、すなわち中国の対アジア関係に、中国近代にお ける「国際的契機」を求める、という新しい視点で書かれている。アジア地域の歴史 における国際秩序およびその内在的変化、さらにその近代における歴史的継承態をア ジアの内側から検討し、現代中国、現代アジア、現代世界へのかかわり方を示唆して いる。

『アジアから見た近代日本』

小島晋治 亜紀書房
日中国交正常化と平和友好条約の調印は確かに、日本と中国、ひいては日本とアジア 諸民族との関係における画期的な事件である。ところが、日中「共同声明」に書かれ た過去への反省や、覇権を求めないという思想は、国民的思想として確立することこ そ、真に歴史の新しい一頁を開くこととなると著者は考える。本書は史実を語ること によって、日本人とアジア人との深い断絶、その深層に潜む近代日本人のアジア観を、 アジア人の立場から解明している。

『近代日本と東アジアー国際交流再考』

加藤祐三編著 筑摩書房
日本人の平均的認識では、近代日本は「西洋化」を中心とする「文明開化」であった。 しかし近代日本は東アジアとの様々な関係を抜きにしては考えられない。「近代」と いう欧米生まれの概念によって、そういった「近代」を持たない国々は「遅れた国」 と反対定義され、支配される対象となっていた。ところが、1945年以後のアジア地域 の民族独立はまさしく「近代の終焉」を意味し、その延長線に最近のアジアの成長が つながっている。二十一世紀を迎えようとしている現在、アジア諸国との関係を再考 すべきであるという問題意識で、本書の筆者たちはそれぞれの研究の視点からこの課 題を検討している。

『中国文学十二話』

奥野信太郎著 松村暎編 NHKブックス
随筆の名手として知られている奥野信太郎は、慶応義塾大学で教授していた時、その 講義は洒脱な趣味と天下一品の話術で人を魅了するものであると、教え子の編者が述 べている。本書は奥野信太郎が生前十二回にわたる放送講演集であり、古今の作品を 網羅した文学史とは違って、中国の古典文学の精髄を独特の見解で語った著作である。