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学生に薦める本 2006年版
佐々木 寛
前年度は、私が人生で手がかりにしてきた自分にとっての貴重な本のいくつかをご紹介しましたが、今年度は、「暗い時代を生き抜く」というテーマでご紹介したいと思います。いつの時代も、それ独自の暗い側面をもっていますが、その中でも希望をもち続けて生き抜いてきた無数の名も無き先人たちがこの世界を支えてきました。私にとって現代に生きるとは、それら無数の人々のあとに続くことだと思っています。
『マウス』(Ⅰ)(Ⅱ)
- アート・スピーゲルマン 晶文社 1991年,1994年
主人公はネズミです。他にもブタやネコなどの動物が出てきます。冒頭で、「友達って何?」という深刻な問いが発せられます。その問いがずっと終りまで響いてきます。舞台の中心は、戦時中のヨーロッパ。ナチスによるユダヤ人大量殺戮の中を生き抜いた父親の経験が語られます。リアルです。重いです。でも、「現代に生きる」ということの意味をしっかりと考えることができます。
『複製技術時代の芸術』
- ウォルター・ベンヤミン 晶文社 1999年
彼もナチに追われ、暗い時代を生き抜いた知識人の一人です。このテキストは20世紀を代表する評論ですが、ちょっと難解かもしれません。多木浩二さんの『ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」精読』(岩波書店)とあわせて読むと手がかりがつかめるでしょう。全体主義に抵抗する精神、感性、生き方とはどのようなものなのか、何度読んでも新しい発見があります。人間すらも複製(コピー)可能になろうとしている現在、「生」をどのように生きればいいのか。じっくり考えてみませんか。
『生きるということ』
- エーリッヒ・フロム 紀伊国屋書店 1977年
To Be or Not to Be(生きるべきか死ぬべきか)という問いに代えて、To Have or to Be(もつべきか在るべきか)というこれまた深い問いが発せられます。著者は、私が最も尊敬する社会心理学者です。読みはじめると、最初は反発を感じるかもしれませんが、少々難解な迷路をくぐりぬけると、これまで体験したことがなかったような叡智の世界に誘われるでしょう。人生変わっちゃうかも。
『癒える力』
- 竹内敏晴 晶文社 1999年
生き辛さからの解放に向かって。よく「生きる」ためには、「あたま」だけではダメです。人間は「からだ」とともに生きています。安易な「癒し」に向かうのではなく、自分の中に眠る「癒える力」と対話するという、古くて新しい思考が必要になっています。「からだ」を通して、自立(自律)性と連帯(共生)とを両方体得する極意に触れてみましょう。世界が何倍にも広がるハッピーなヒントがたくさん詰まっています。