学生に薦める本 2006年版

赤木 敏子

『自白の風景』

深谷忠記 徳間書店 2003年
 平成21年には、裁判官と共に殺人や誘拐などの刑事事件の法廷に立ち会い、判決にまで関与する裁判員制度が導入されます。裁判員は、選挙人名簿からサンプリングして作成された裁判員候補者名簿を基に、事件ごとに抽選で選ばれます。したがって、皆さんも裁判員に選ばれることがあるのです。
 このミステリーは、一人の弁護士が二十数年を隔てて起きた2つの冤罪(えんざい)事件の間に、緻密な糸を張り巡らせ、手繰っていく。冤罪は深刻な社会的問題であり、取り調べや捜査の過程で生じる事実誤認から生まれるものです。かつての日本にも冤罪ではないかと問題になった事件はいくつかあります。したがって、現在の裁判では自白だけで有罪にすることは難しい。そこで警察は犯行を裏付ける証拠を必死に探すことになります。
 第1の事件は、被害者のものと思われる血液が付着したシャツを、容疑者として逮捕した人の住まいから押収しますが、これは警察官によって作られた証拠だったのです。押収の経緯と鑑定方法に疑義があったにもかかわらず、裁判所は有罪の判決を下しました。そして第2の事件の被害者は第1の事件の裁判官であり、容疑者は第1の事件の警察官という筋書き。
 読み始めるとどんどん引き込まれていきます。いわゆる専門書ではありませんが、警察官や検事による取調べや裁判のあり方などを考えさせる本です。
[OPAC]