学生に薦める本 2013年版

小片 章子(情報センター課)

『ももクロの美学 - 〈わけのわからなさ〉の秘密 廣済堂新書』

安西 信一【著】 廣済堂出版
ももいろクローバーZには、皆さんのような若者層だけでなく、オジサン世代にも支持者が多いらしい。
本書の著者も『「イギリス風景式庭園の美学」などの著作がある美学芸術学専攻の東京大学文学部の准教授で、ジャズフルート奏者でもある。』オジサン世代のひとりである。(本書著者紹介より)
著者は、自らも熱烈に惹かれる「ももクロの魅力」を、著者の専門分野である「美学」を主軸とし、『宗教論』、『身体論』、『救済論』、『社会文化論』など多方面からアプローチし、様々なデータや学説を駆使して類推・分析している。
私は、彼女たちのライブパフォーマンスを見るにつけ、どれだけの努力を重ねたのだろうと感心し、『努力なんか当たり前、結果を出せ!』ということが身にしみているオジサン世代が、笑顔で結果を出し続けている彼女たちに惹かれるのは当然なんだろうと想像していた。ところが、本書を読むとどうもそんな単純な理由だけではないらしい。
著者は、柳田國男、岡倉天心、フロイト、ヴァレリー、ベンヤミン、丸山眞男などの説を引用して「ももクロ」の魅力を類推しているが、正直言ってかなり高度で難解である。
しかし、彼女たちの年譜や日本のアイドル史、音楽的な分析なども興味深く、難解な部分を飛ばしながらでも読み進んでいくと、徐々に著者の言わんとすることが少し理解できるようになる。
特に、最終章「ももクロと日本:救済としての少女」は非常に興味深い。私なりに解釈を試みた。
日本には、古来から少女=巫女=シャーマンによる救済という伝統がある。
日本に対して素直な愛情を抱くことができずに育ったオジサン世代は、心の中に根無し草的な不安定さを抱えている。しかし、阪神淡路大震災、オウム事件などによって日本が徐々に壊れていく事を感じるにつれて日本への愛情を自覚し始めていた。そして、3.11を経験し、「日本」の一部が確実に失われた事によってできてしまった心の空白の部分を埋めてくれる存在を潜在的に探した。その埋めてくれる=救済する存在が少女である彼女たちである。(かなり大袈裟だが。)
確かに、卑近な例を挙げれば、彼女たちのステージは、熱湯風呂、ドリフターズ、相撲、空手、プロレス、落語、神話、任侠の仁義、書道、オリンピック、石川啄木、太宰治など、日本人が好む意匠に満ちている。それらを見ると、失われた「日本」のほんの一部でも取り戻しているような安堵感を感じるのだろうか。
とはいえ、副書名である「わけのわからなさ」が彼女たちの魅力であるのなら、わけがわからないままでもよいのかな、とも思う。それはともかく、ひとつの事象を多方面から検証する例として、皆さんにお薦めしたい本である。卒業研究のアプローチ法の一例としても参考になりそうである。
[OPAC]