学生に薦める本 2013年版

佐藤 学(情報センター課)

『将棋名人血風録 - 奇人・変人・超人 角川oneテ-マ21』

加藤 一二三【著】 角川書店
小学生の頃、弟とよく将棋をして遊んでいました。将棋教室で習っていたわけではありませんが、面白かったのか、日曜の昼に放映していたNHK将棋番組を毎週観ていました。 番組内容は、棋士が対局しているところを解説する内容です。
何が面白いの?と思う人もいるかと思いますが、異質な雰囲気があり、見応えがあります。
子どもながら、観ていていつも思うことがありました。一つは、ルールです。持ち時間があり、持ち時間を超えると30秒以内に指さなければいけない点です。一手に何十分もかけて指していたのに、持ち時間がなくなると「10秒、20秒、1・2・3・・・」と30秒を数える中で慌てて指す棋士の姿に、「そんな短時間で最善の判断ができるわけがないのに」と思っていました。二つ目は、王手までいかないのに、「参りました」で終わるところです。当然、解説者が詰むまでを解説するのですが、勝負なのだから最後まで白黒つけるべきでは?と思っていました。
三つ目は、勝敗が決した後も対局者同士で反省会をする点です。勝負の分かれ目のところまで戻って、パチパチ音を立てて何度も指し直します。勝敗が決した直後は、敗者は悔しい気持ちだろうし、勝者は勝ち誇った状況で普通は反省会なんて成り立たつはずがないのですが、どういう心境なのだろうか。
なぜ本書を薦めるかと言うと、今年行われた将棋のプロ棋士とコンピュータソフトが団体戦形式で戦う「第2回電王戦」で、初めて人間側が負けて大きな話題になったからです。
恐らく、数年のうちにコンピュータは人間を超えて、人間が挑戦者となる日が来るでしょう。「いや、違う。名人がやれば負けることはない。」と思う人もいるかもしれません。でも、私は名人がコンピュータと勝負する必要はないと思っています。本書を読むと分かるように、将棋とは単純に勝負するものではなく、一手に何分もかけて熟考したり、30秒で慌てて指して大ポカをしたり、時には盤外戦だってやります。そういう人間臭さから人を引き付け、将棋としての異質な空間が大きな魅力となるからです。無表情のコンピュータが数秒で指す将棋なんて、観ていて面白いはずがありません。
本書には、将棋番組に出ていた棋士の名前がたくさん出てきて、懐かしく思えた一冊です。
[OPAC]