学生に薦める本 2012年版

小澤 治子

 ここに紹介する本は、いずれもここ10年以内に出版され、価格も安く、手に入りやすいものです。21世紀に生きる私たちが日本や世界やロシアについて考え、これからの国際社会でどのように生きていったら良いかをめぐって示唆をあたえてくれると思います。私が担当している授業科目と関連している本もありますが、あまり授業や勉強を意識せずに、気軽に手にとってみてください。

『いま平和とは-人権と人道をめぐる9話-』

最上敏樹著 岩波書店 2006.3
 21世紀にはいり、いまだ紛争や暴力の火種は消えていません。むしろ「テロ」などの新しい形で地球上には様々な問題が起こっています。その中で「平和」の意味を考える必要性は増々大きくなっています。なぜこの世界には武力紛争が絶えなかったのか、国際連合の可能性と限界はどこにあるのか、平和と人権はどのような関係にあるのか、東アジアの今後に何が必要か。21世紀を生きる若者には、この本を読んで是非考えてほしいです。
[OPAC]

『サンクト・ペテルブルグ よみがえった幻想都市』

小町文雄著 中央公論新社 2006.2
 サンクト・ペテルブルグは、モスクワに次いでロシア第2の都市です。ソ連時代はレニングラードと呼ばれていたこの都市は、1703年に当時ロシア皇帝であったピョートル大帝がスウェーデンとの戦争に勝利して建設し、その後200年以上ロシアの首都でした。そして2003年の建都300年祭を契機に増々美しくなりました。この本を読むと、楽しくロシアの歴史を勉強できます。また実際にペテルブルグを観光する時のガイドブックとして役立つこと間違いなしです。
[OPAC]

『ユーラシア胎動―ロシア・中国・中央アジア』

堀江則雄著 岩波書店 2010.5
 ユーラシア。アジアとヨーロッパにまたがるこの地名は20世紀にはほとんど意識されることはありませんでした。様々な形で対立が起こり、分断されてきたこのユーラシアで、21世紀にはいり協力のうねりがみられるようになってきました。特に中国から中央アジア(かつてはソ連を構成していた地域です)にかけて、「新しいシルクロード」が生まれる可能性があります。是非この本を読んで、ユーラシアの旅の気分を味わいましょう。そして、狭い日本に閉じこもっていないで、未来の地域協力、国際協力の夢をみましょう。
[OPAC]

『国際連盟 世界平和への夢と挫折』

篠原初枝著 中央公論新社 2010.5
 授業を行っていて、国際連合と国際連盟を混同して理解している学生が多く、困ったものだと思います。1920年に正式に発足した国際連盟は、結果的に第2次世界大戦の勃発を防げなかったことから否定的な評価が行われがちなのですが、それでも20世紀前半にこのような国際組織が誕生したことは、意味があったと思います。この本は国際連盟の誕生から終焉までをわかりやすく解説しているだけでなく、国際連盟で活躍した日本人についても取り上げて、興味がわきます。また加盟国一覧などを示した巻末の付録がとても役に立ちます。
[OPAC]

『小林多喜二――21世紀にどう読むか』岩波新書

ノーマ・フィールド著 岩波書店 2009.1
 あなたは小林多喜二という作家を知っていますか。日本のプロレタリア文学を代表する作家で数多くの作品を残しましたが、1933年に特高警察の拷問によって亡くなりました。その小林多喜二が今また若者の間で注目されるようになってきたそうです。なぜでしょうか。今日の格差社会の厳しさが今の若者と多喜二の作品を結びつけるのかもしれません。日本人の母とアメリカ人の父の間に生まれた著者ノーマ・フィールドは、「多喜二さん。」という呼びかけでこの本を書き出しました。多喜二の生涯をその人間くささも含めて、愛情を籠めて描いています。
[OPAC]

『蟹工船・党生活者』新潮文庫

小林多喜二著 新潮社 2003.6
 先に紹介した小林多喜二の代表作が2編収められています。戦前の日本では貧しい者の権利を主張する社会主義の思想は弾圧されましたが、この思想が多くの人々をひきつけたことも事実です。グローバリゼーションと格差社会の21世紀にはいり、多喜二の作品はまた新たな意味を持つメッセージを私たちに投げかけていると思います。『蟹工船』の書き出しは、「おい、地獄さえぐんだで!」。
[OPAC]