学生に薦める本 2012年版

佐々木 寛

2011年度に薦める本では、以下のように書きました。「…多くの日本人は、依然として阿呆のように眠ったままですが、世界では、大きな地鳴りが聞こえています。きたるべき世界のあり方について今からじっくり考えておかないと、私たちは単にその大きな濁流に飲み込まれるだけの、はかない歴史の藻屑(もくず)となって消えてゆくだけでしょう…」。それは、図らずも、「3・11」を予言するかのような文章になってしまいました。今、タイタニック号のように沈みゆく日本で、「それでもなお」生き抜いていくために、何が必要か。慌てるばかりに、資格とか、占いとか、権威とか、「わかりやすい」安物にしがみついてはいけません。今は何より、ただ静かに、古典や歴史に尋ねてみることです。

『ホモ・ルーデンス』中公文庫

ホイジンガ著 中央公論新社 1973.8
現在、特に日本をはじめとする「先進国」で、著しく衰弱を遂げているのは、私たちの知性や理性のみならず、<人間>の力そのものです。<人間>の力とは何か。それは真に<遊ぶ>力です。もう一度、この壮大な人類学の古典を現代文明論として読みかえしてみましょう。私たちが今どこに立っているのか、そして本当は何が必要なのかを考えるヒントがたくさん見つけられると思います。
[OPAC]

『全体主義の起源』新装版1・2・3

ハナ・アーレント著 みすず書房 1981.7
「橋下現象」といわれる昨今の日本の社会現象は、前世紀ヨーロッパで起こった「ファシズム」を文字って「ハシズム」と呼ばれたりもします。しかし、どうやらその命名は的確であるようです。なぜ全体主義がかつて世界を覆ったのか。この古典は、「無縁社会」の日本と、優勝劣敗の哲学を内に秘める「ハシズム」との関係について、歴史的に理解する視点を与えてくれるでしょう。
[OPAC]

『藤田省三セレクション』平凡社ライブラリー

藤田省三著(市村弘正編) 平凡社 2010.5
これも、3・11後の文脈で再読すべき現代の古典です。時代の表層が剥げ落ち、地下のマグマが地上を揺り動かすようになった時代で、真に格闘し、思考することがどういうことであるのか。なぜ本当の思想は危機の自覚の中からしか生まれないのか。数々の硬質な言葉の原石から、それぞれの生きた宝石を見つけ出してください。
[OPAC]

『歴史の暮方』中公クラシックス

林達夫著 中央公論新社 2005.7
1940年から42年にかけて書かれた林達夫のエッセイ集です。時代がどんどんとおかしくなっていくときに、ものごとを自律的/自立的に考える人間は、実際にどのように生きたのか。静かに、目立たず、しかし激しく世界と対峙した一人の人間の姿に、私はいつも励まされます。
[OPAC]

『<私たち>の場所』

ベンジャミン・R・バーバー著 慶應義塾大学出版会 2007.8
最後は、古典というより、これからの「私たち」について。実はもう、希望は<デモクラシー>にしかありません(私はそう判断しています)。政権交代も、選挙制度の改革も、そしておそらく憲法の改正も、それだけではけっして、私たちの生活や社会を豊かに変化させることはできません。私たちの消費や労働、ボランティアのあり方を根源的に考え直し、デモクラシーを再生させるための新しい方法を共に考えましょう。
[OPAC]