学生に薦める本 2018年版
臼井 陽一郎
【孤独について考えるとき、読んでみたい本】
『オープン・シティ』 (新潮クレスト・ブックス)
- テジュ・コール(著) 小磯洋光(訳) 新潮社 2017年
精神科医のアフリカ系黒人がニューヨークをそしてブリュッセルを歩く。そこから見えてくる街の光景や心模様には、全世界のリアリティが反映されている。
『極北』
- マーセル・セロー(著) 村上春樹(訳) 中央公論新社 2012年
生きることそのものが闘いの日々である極北の地で、言葉の通じない子どもとふとしたことから共同生活をはじめた主人公のハードボイルドな物語。
『充たされざる者』 (ハヤカワepi文庫)
- カズオ・イシグロ(著) 古賀林幸(訳) 早川書房 2007年
伝説のピアニストは認知症、すべてを忘却してしまう。彼の絶対的な孤独の調べにこころの耳を傾けながら、その不協和音を柔らかく優しいタッチで描き出すイシグロの筆の技を、堪能して欲しい。
【再生について考えるとき、読んでみたい本】
『土の中の子供』 (新潮文庫)
- 中村文則(著) 新潮社 2007年
親に捨てられ、引き取られた先で壮絶な暴力を受け続けた少年が、ふとしたきっかけである女性と暮らしはじめる。その女性は学生時代に不倫して子どもを孕み捨てられ堕胎し、性的に不感症になってしまっていた。ふたりがこの世で生を続ける意味を身体の奥底から首を絞めるように絞り出していく、その闘いの記録。
『ヘヴン』 (講談社文庫)
- 川上未映子(著) 講談社 2012年
彼はサッカーボールとして頭を蹴られていた。いつも遊び道具として<彼ら>の暴力に曝されていた。もうひとり、汚らわしいと蔑まれていた少女がいた。ふたりは手をつないだ。ふたりの闘いがはじまった。雨降りしきる公園で少女が<彼ら>の暴力に対して、服を脱ぎさり踊ることで抵抗する場面は、日本文学史上に残るべき名場面だとおもう(大げさだけど、たぶん)。
『ピンポン』 (エクス・リブリス)
- パク・ミンギュ(著) 斎藤真理子(訳) 白水社 2017年
自らに暴力を加える者たちに自ら進んで奉仕するようになってしまった主人公。あるときふとしたきっかけで、卓球とひとりの親友に出会う。親友は富豪の息子。どうにでも暴力から逃れられるし、むしろ圧倒的な暴力でもって復讐することもかんたんにできるのに、主人公とともに、まったくもって意味のないただただ理不尽な暴力に耐え続けている。その2人の卓球のラリー。その無限に続く卓球のラリーは、やがて壮大な宇宙史的叙事詩に。どこまでがイメージでどこからがリアリティなのか、判別がつかなくなる。コミカルで悲劇的で圧倒的な絶望感にまさに圧倒されるにも関わらず、どこか救いが感じられる。現代韓国文学の傑作。
『忘れられた巨人』 (ハヤカワepi文庫)
- カズオ・イシグロ(著) 土屋政雄(訳) 早川書房 2017年
記憶を失った人びとがつどい、その記憶を取り戻すことの許されない共同体から、ふたりの老親が息子を探す旅に出かける。やがて国全体に吹き荒れたジェノサイドの厳しい爪痕が明らかになってくる。ジェノサイド後の社会の再生の物語として読み込みたい。