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学生に薦める本 2018年版
野崎 茂(学長)
『日中漂流:グローバル・パワーはどこへ向かうか』(岩波新書)
- 毛里和子(著) 岩波書店 2017年
1972年の日中国交回復から始まり今日に至る日中交流現代史を振り返って著者は問う。「1972年から両国をつないだ原理は何だったのだろうか。」と。そして「それは道義をもとにした絆(中国は日本の侵略を赦す、日本は侵略を謝罪し続ける)と、人と人との人格で支え合う関係(名宰相周恩来、対中国交を実現した「辣腕」田中角栄)であった。」と喝破したうえで続ける。「問題はその後40年、日中関係をつなぐ組織や制度を作り上げることが出来なかったことである。そのため関係は不安定で脆く、90年代半ば以降の二国間の構造転換に耐えられなかった。」
引用ばかりで申し訳ありません。でも2000年代に入ってからの反日デモや尖閣諸島をめぐる衝突を振り返ってみると、これはまさしく卓見だと思います。「中国の夢」を語り、中国ファースト政策を力で推し進めて来た習近平政権は最近ようやく僅かながらも抑制的な対応も見せ始めていると言われています。日本に対する「当たり」も少しだけ和らいできたような気もします。日中平和友好条約締結40周年を迎える今年、あらためてこれからの日中関係を考えてみる際の格好の手引書になるはずです。
引用ばかりで申し訳ありません。でも2000年代に入ってからの反日デモや尖閣諸島をめぐる衝突を振り返ってみると、これはまさしく卓見だと思います。「中国の夢」を語り、中国ファースト政策を力で推し進めて来た習近平政権は最近ようやく僅かながらも抑制的な対応も見せ始めていると言われています。日本に対する「当たり」も少しだけ和らいできたような気もします。日中平和友好条約締結40周年を迎える今年、あらためてこれからの日中関係を考えてみる際の格好の手引書になるはずです。
『ロシア革命:破局の8か月』(岩波新書)
- 池田嘉郎(著) 岩波書店 2017年
昨年はロシア革命勃発100周年ということもあり、関連書籍が何冊も発刊されました。1917年2月の繊維工場の女工たちによるデモが端緒となって、いわゆる二月革命ですが、誕生した臨時政府がいろんな権力者の去来の中で挫折し、レーニン、トロツキー達のボルシェビキが一気に権力を握る十月革命に至ったのか。本書はこれまであまり取り上げられることのなかった、この8か月に焦点を当てて臨時政府の果たした役割と歴史的意義について論考しています。
それにしてもロシア人の名前は覚えにくい。本書では主要人物を一覧表にして、理解しやすいように工夫が凝らされています。が、やっぱり覚えにくい。これは蛇足の感想でした。
なお手軽に読むことの出来る本書に加えて、この分野をもう少し渉猟してみたいという人には本著者が編集委員に加わっている「ロシア革命とソ連の世紀 全5巻(岩波書店 2017年)」もお薦め。
ちなみに著者は平成18年~22年に本学講師として情報文化学部で教鞭をとっておられた気鋭のロシア近現代史学者。
それにしてもロシア人の名前は覚えにくい。本書では主要人物を一覧表にして、理解しやすいように工夫が凝らされています。が、やっぱり覚えにくい。これは蛇足の感想でした。
なお手軽に読むことの出来る本書に加えて、この分野をもう少し渉猟してみたいという人には本著者が編集委員に加わっている「ロシア革命とソ連の世紀 全5巻(岩波書店 2017年)」もお薦め。
ちなみに著者は平成18年~22年に本学講師として情報文化学部で教鞭をとっておられた気鋭のロシア近現代史学者。
『オリバー・ストーン オン プーチン』
- オリバー・ストーン(著)土方奈美(翻訳) 文藝春秋 2018年
ロシアついでにもう一冊。
米国の映画監督オリバー・ストーンが2015年7月から2017年2月に亘って4回訪露し、プーチン大統領に合計9日間に亘るインタビューを敢行、これをドキュメンタリー映像にまとめ米国でTV放映。日本でもNHK「BS 世界のドキュメンタリー」で放映(2018年3月1日、2日)。本書はそれを書籍化したもの。
ソ連崩壊後の混乱期から現在に至るロシアの、そしてプーチンの内政、外交政策の背景が秘話も含めて語られる。その内容について見てみると、もちろん権力者による自己正当化に溢れているという批判はあるでしょうが、欧米史観とは全く別の価値観に拠った時にはかくも違った捉え方、端的に言えば「欧米の正義はロシアの悪、ロシアの正義は欧米の悪」、になるのかと愕然とすることしきりです。
ご想像どおり、アメリカでのこのTV放映は「お前はプーチンの代弁者か」と悪評サクサクだったそうです。
毀誉褒貶はさておき「ロシア・ファースト」のナショナリストであるプーチンの面目躍如。あなたのプーチン観が変わり、ここまで自己の信念を押し通せるプーチンが好きになるかも。
またかつて永田町で辻本清美議員とのバトルなどを通じ「ヒール役」を務めた鈴木宗男氏が、日本とロシアとの北方領土交渉の流れを後書き解説として寄せているのも愛嬌です。
米国の映画監督オリバー・ストーンが2015年7月から2017年2月に亘って4回訪露し、プーチン大統領に合計9日間に亘るインタビューを敢行、これをドキュメンタリー映像にまとめ米国でTV放映。日本でもNHK「BS 世界のドキュメンタリー」で放映(2018年3月1日、2日)。本書はそれを書籍化したもの。
ソ連崩壊後の混乱期から現在に至るロシアの、そしてプーチンの内政、外交政策の背景が秘話も含めて語られる。その内容について見てみると、もちろん権力者による自己正当化に溢れているという批判はあるでしょうが、欧米史観とは全く別の価値観に拠った時にはかくも違った捉え方、端的に言えば「欧米の正義はロシアの悪、ロシアの正義は欧米の悪」、になるのかと愕然とすることしきりです。
ご想像どおり、アメリカでのこのTV放映は「お前はプーチンの代弁者か」と悪評サクサクだったそうです。
毀誉褒貶はさておき「ロシア・ファースト」のナショナリストであるプーチンの面目躍如。あなたのプーチン観が変わり、ここまで自己の信念を押し通せるプーチンが好きになるかも。
またかつて永田町で辻本清美議員とのバトルなどを通じ「ヒール役」を務めた鈴木宗男氏が、日本とロシアとの北方領土交渉の流れを後書き解説として寄せているのも愛嬌です。
『現代朝鮮経済 挫折と再生への歩み』(ERINA北東アジア研究叢書-6)
- 三村光弘(著) 日本評論社 2017年
ここで見かけることの少ない国の本、それもまともに経済を論じている本を一冊紹介してみます。
資料が圧倒的に少ない、また語られることの少ない現代の北朝鮮経済について本を書け、なんてそもそも無理な話。と思っていたら書いた人がいました。どうやって書いたのかと探ってみると、そこはやはりあらゆる伝をたどり丹念に資料を集め、現地を往訪し同国の研究者や実務者と議論を重ねたほか、韓国、中国、ロシア、米国などの関係者との意見交換なども踏まえてまとめ上げたという。努力の結晶、貴重な労作です。閉ざされていた扉がこれから少しずつ開き始めて行くことでしょうが、私たちの目の前に現れるのはどんな国なのか。ヒントを与えてくれる本に仕上がっています。
著者は環日本海経済研究所(新潟市)の主任研究員。最近北朝鮮情勢が急展開を見せているということもあり、新聞やTVによく登場しております。
資料が圧倒的に少ない、また語られることの少ない現代の北朝鮮経済について本を書け、なんてそもそも無理な話。と思っていたら書いた人がいました。どうやって書いたのかと探ってみると、そこはやはりあらゆる伝をたどり丹念に資料を集め、現地を往訪し同国の研究者や実務者と議論を重ねたほか、韓国、中国、ロシア、米国などの関係者との意見交換なども踏まえてまとめ上げたという。努力の結晶、貴重な労作です。閉ざされていた扉がこれから少しずつ開き始めて行くことでしょうが、私たちの目の前に現れるのはどんな国なのか。ヒントを与えてくれる本に仕上がっています。
著者は環日本海経済研究所(新潟市)の主任研究員。最近北朝鮮情勢が急展開を見せているということもあり、新聞やTVによく登場しております。
『「サヨナラ」ダケガ人生カ:漢詩七五訳に遊ぶ』
- 松下緑(著) 集英社 2003年
最後に肩の力を抜くのに最適な本を一冊。
もう何にも言いません。下手な論評は致しません。
人生の哀歓をしみじみ味わいたいというセンチメンタルな気持ちになったとき、安らぎが欲しいなァと思ったときに是非この本を手に取ってみてください。七五調の軽快な語り口に乗せられて、心は豊かに満たされること請け合い。
例えば本書の中で著者は李白の「客中行」という一篇(原文読み下しは次のとおり)
蘭陵(らんりょう)の美酒鬱金(びしゅうこん)の香(かお)り
玉(ぎょく)椀盛(わんも)り来(き)たる琥珀(こはく)の色(いろ)
但(た)だ主人(しゅじん)をして能(よ)く客(きゃく)を酔(よ)わしめば
知(し)らず何(いず)れの処(ところ)か是(こ)れ他郷(たきょう)なるを
の詩(漢文のままだとやっぱり口調は硬くなりますね)を、
ナダノ樽(たる)ザケ木(き)ノ香(か)モタカク
マスニ満(み)タセバ琥珀(こはく)ニヒカル
アルジナカナカトリモチ上手(じょうず)
マルデザイショデ飲(の)ムヨウナ
という、かくも軽やかな名訳に仕立て上げています。
でもここは新潟、酒どころ。新潟県人の私としてはここのところを、
越(こし)の美酒薫香(うまざけくんこう)ほのか
端麗辛口白磁(たんれいからくちはくじ)にさえる
主人(あるじ)なかなかもてなし上手(じょうず)
まるで我(わ)が家(や)で飲(の)むような
と訳してみたい。
お粗末でした。
もう何にも言いません。下手な論評は致しません。
人生の哀歓をしみじみ味わいたいというセンチメンタルな気持ちになったとき、安らぎが欲しいなァと思ったときに是非この本を手に取ってみてください。七五調の軽快な語り口に乗せられて、心は豊かに満たされること請け合い。
例えば本書の中で著者は李白の「客中行」という一篇(原文読み下しは次のとおり)
蘭陵(らんりょう)の美酒鬱金(びしゅうこん)の香(かお)り
玉(ぎょく)椀盛(わんも)り来(き)たる琥珀(こはく)の色(いろ)
但(た)だ主人(しゅじん)をして能(よ)く客(きゃく)を酔(よ)わしめば
知(し)らず何(いず)れの処(ところ)か是(こ)れ他郷(たきょう)なるを
の詩(漢文のままだとやっぱり口調は硬くなりますね)を、
ナダノ樽(たる)ザケ木(き)ノ香(か)モタカク
マスニ満(み)タセバ琥珀(こはく)ニヒカル
アルジナカナカトリモチ上手(じょうず)
マルデザイショデ飲(の)ムヨウナ
という、かくも軽やかな名訳に仕立て上げています。
でもここは新潟、酒どころ。新潟県人の私としてはここのところを、
越(こし)の美酒薫香(うまざけくんこう)ほのか
端麗辛口白磁(たんれいからくちはくじ)にさえる
主人(あるじ)なかなかもてなし上手(じょうず)
まるで我(わ)が家(や)で飲(の)むような
と訳してみたい。
お粗末でした。
「貝」や「石」といった珍しいものに価値の表象を求めた古代から始まり、「銀」や「金」という地金を通貨の信頼尺度として用いながら発展してきた信用・金融制度ですが、20世紀に入り各国が続々と金本位制から離脱して不換紙幣による制度に移行してからも、国家や中央銀行の信用力に依存しながらそれは益々巨大化、複雑化して参りました。そして今日に至ってはその一歩先を行く、国家や中央銀行の信用力から切り離されたデジタル仮想通貨まで出現しています。これはもしかして価値の尺度や基準を「権威」に求めなくてもいいということなのではないか。そうすると「信用」とか「金融」はこれから何処へ向かうのか。
手軽に通読出来ます。タイトルにケチをつけてゴメンナサイ。そう、マトモでタメになる本です。