学生に薦める本 2015年版

小林 満男

『しんがりの思想-反リーダーシップ論―』

鷲田清一著 角川書店 2015.4(角川新書)
リーダーシップ論とか、リーダー養成をテーマにした本が多い中で、副題に-反リーダーシップ論-をつけた新書が発売された。鷲田氏の本は以前に読んだことがあるので早速、手に取ってみた。哲学者なのでサラリーマン作家などとは違った見方、考え方を提示され、読むたびに目から鱗が落ちるのが常である。
本書で取り上げている話題はかなりひろい。要は『リーダーも大事だが、それと同様にリーダーをサポートするフォロワーの役目も大事である、そしてリーダーをただ待望するのではなく、フォロワーや脇役として活躍しつつも、梅棹忠夫のいう「請われれば一差し舞える人物たれ」』と主張しているようだ。
私自身、35年もサラリーマン生活をおくったせいか、本書の考え方や主張に全面的に賛成するものではないが、久しぶりに著者の意見とぶつかり合いながら読む楽しみがあった。例えば、『もめ事の解決は行政や司法にまかせ、防犯・防災は警察官や消防士にまかせるという「おまかせ(委託)」の構造が生活の細部まで浸透している』ということには納得しているが、『この国は本気で「退却戦」を考えなければならない時代に入りつつある』といった見方についてはもう少し慎重に議論してほしい、と思うのである。
本書を読む際は、自分が考えている、思い描いているものと小競り合いをしながら、頭の中を整理していこうというぐらいのスタンスの方がいいかもしれない。そう、コーヒーとかお茶を飲みながら、ゆっくりと読むことをおすすめしたい。
[OPAC]

『社会力を育てる-新しい「学び」の構想』

門脇厚司著 岩波書店 2010.5(岩波新書)
5年前に読んだ本を久しぶりに手に取ってみた。気がついたら2度目の読書を終えていた。これだけ惹きつける本書の魅力はなんだろうか。本書は「人が人とつながり社会をつくる力」としての社会力を育てることの大切さを述べたものである。
著者の門脇氏厚司は「他者とつながりたい」「他者といい関係をつくりたい」「他者と協働したい」という性向や資質は、生得的なものではなく、生まれた直後から始まる大人との直接的な応答や、多様な他者と相互行為を繰り返すことによって培い育てなければならないと主張する。「人々の協働行動を可能にしているいい人間関係」としての社会関係資本(ソーシャルキャピタル)が世界的に注目されて久しいが、日本では東日本大震災以降、この概念が急速にひろがってきたようだ。この社会の社会関係資本がどれだけ高まるかは、詰まるところ、社会を構成する人々がどれだけ豊かな社会力を身につけるかに重なっているとしている。
ぜひ本書を手に取って、自分にとって社会力を身につけるとはどういうことなのかじっくりと考えてほしい。そして人とのつながりを豊かにしながら課題山積の社会へ踏み出してほしい。
[OPAC]