学生に薦める本 2015年版

西山 茂

『統計数字を疑う: なぜ実感とズレるのか?』

門倉貴史著 光文社 2006.10(光文社新書)
大学生の頃、ブルーバックス(講談社)の「統計でウソをつく法」という本を読んで、数字というものは、簡単に信用してはいけないと知らされ、それ以来、数字は一呼吸(実際にはちょっと調べる)おいてみるようにしている。これは非常に役立っていると思っている。
この本の前半は、統計数字というものは簡単に信じてはいけないという一般的な話が書かれ、後半は、エコノミストの著者が、経済に関する統計数字の信用できない点がいろいろ実例を挙げながら紹介されている。数字リテラシーを高めるためには良い本であると考える。
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『図解反論する技術反論されない技術 : 弁護士だけが知っている』

木山泰嗣著 ディスカバー・トゥエンティワン 2013.12
この本に書かれている技術は、いずれも、わりと日常的な技術であるが、学生はそれほど知らないのではないか。ただ、この本のように整理してあると、局面に応じて上手く使えるようになるのではないかと考える。ただ、それなりの訓練が必要である。読んだだけで、反論されなくなれば苦労はいらない。この本も巻末に技術の使用例などが書いてあるが、所謂演習のようなものが必要であろう。
ただし、反論されないことがいいかどうかは別途考える必要がありそうだ。
図解とあるが、お人形さんの吹き出しにまとめが書いてあるようなもので、あまり図解とは言い難い。
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『社会調査のウソ : リサーチ・リテラシーのすすめ』

谷岡一郎著 文藝春秋 2000.6(文春新書)
本書は、世の中の社会調査がいかにいい加減に行われているかを実例を引いて示している。著者は、いい加減な調査にかなり腹を立てているようで、有名どころの調査をバサリバサリと切り落としている。最初の頃は面白いのだが、後半になると少々辟易としてくる。特に最後の産経新聞の調査に対する批判は、ほとんど言いがかりのような気もする。取り上げている記事自体はコラム的であり、それほど厳密に考えて読むものではないのではないか。もう少し寛容に読んでもよいと考える。
著者の提案しているリサーチリテラシーという考え方には共感する。何事批判的に見ることは重要だと考える。
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『統計でウソをつく法 : 数式を使わない統計学入門』

ダレル・ハフ著 講談社 1968.7(ブルーバックス)
学生時代、ブルーバックスには大変お世話になった。かなりの冊数を持っていた。
この一冊は、統計を好きにさせてくれた本である。本学の学生にも薦めようと借り出してきて、ぱらぱらめくってみたが、内容はほとんど覚えていないことに気が付いた。しかし、統計を扱う、あるいは、統計処理を施したデータを読むときに気を付けなければならないことが、網羅的に書いてあり、変わらず良書であると思う。28年間読み継がれ57刷まで行っていることがその証左である。
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『ウソを見破る統計学』

神永正博著 講談社 2011.4(ブルーバックス)
学生に薦めるためには、「統計でウソをつく法」よりもう少し新しい本が良いのではないかと考え、ブルーバックスシリーズで探した本である。
統計の使い方、統計を扱う際に気を付けなければならないことが、親子の対話を軸に書かれており、学生には適しているのではないかと思う。ただし、筆者も言っているようにできるだけ数式を使わないように書いているため、読んでいる途中で数字や式などをチェックしようと思うと、少々手間がかかるような部分もあり、物足りないと思うところもある。統計というだけで敬遠している学生には手頃な本だと思う。
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『社会調査の基本』

杉山明子編著 朝倉書店 2011.3
社会調査に関すること(標本、調査法、調査票、統計的分析等)について一通り記述されている。初学者向きの良い本である。この本の主眼ではないので仕方がないのかもしれないが、統計に関する記述が弱く、分析や推定、検定手法を自信を持って使うには別書が必要であろう。
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『社会調査・アンケート調査とデータ解析』(2版)

安藤明之著 日本評論社 2013.3
本書は「社会調査士」という資格取得を目指す人向けに書かれているようである。内容的には「社会調査の基礎」とほとんど同じである。ただし、インターネットを使った調査に関して記述があり、書き方も全書に比較すると易しいことから、本学の学生が卒論などで社会調査(アンケート調査)をする前に一読しておく本としては良いものであろう。
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『鈴木敏文の統計心理学 : データサイエンティストを超える仕事術』

勝見明著 プレジデント社 2013.12
セブンアンドアイホールディングスの優れた経営者としてつとに有名な鈴木さんの会社経営方法に関する自伝ならぬ他伝(?)書である。
過去の経験に捕らわれない、データを見る、お客の立場に立って考えるという姿勢は確かに優れている。しかし、日本の経営者の多くが、売る側(作る側)の立場で商売をしていて、買う側(使う側)の立場で商売をしていないということであれば、ちょっとびっくりである。Product-outではなくMarket-inで商売をやるというのはずいぶん古くから言われてきていると思う。私自身が商売をしていないのだから偉そうには言えないが、こんな当たり前のことがやられていないというのであれば、景気回復は難しいかも。
「今は多様化の時代ではなく、単一化の時代である。商品サイクルが短いから、一見多様化に見えるが、細かく見ていくと、単一化している」、というのはなるほどなと思った。こういうところは実際にビジネスをしていないとわからないものなのだろう。
卒研4の学生に読んで欲しい本の1冊である。
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『仕事力をアップする身だしなみ40のルール』

日野江都子著 日本経済新聞社 2013.5(日経ビジネス文庫)
私は若い時は、人は中身で外見ではないと思っていた。しかし、年をとるにつれて第1印象、つまり外見が人の評価に大きく影響することを学んだ。誰に教えられるというわけでもなく、自分がある人を評価するときその人に最初にあった時の印象がず~っと尾を引いていることに気が付いたからである。見た目は極めて重要である。殊に、多くのビジネスのように短期間で勝負しなければならないときはなおさらである。
ところで翻って、この本はその外見を如何に良くするかを説いた本である。この本に書かれていることは確かに正しいし、それが守られたら極めて効果的であろうと思う。しかし、通常、そこまでやるにはお金も時間もかかる。手助けをしてくる人もいる。エグゼクティブといわれる人であればまだしも、就活に向かう学生を含め若いビジネスマンは、その時間を振り向けなければならないものが別にある。知識やスキルの獲得などである。だから、この本に書かれている事柄は、ベストアンサーとして参考とし、その時の自分にどのように応用するかを考える参考資料と考えればいいのではないかと思う。服装、仕草、持ち物などに他人はどのように反応しているのかをこの本は教えてくれる。だから、相手にマイナスの印象を与えないためには、どのようにすればよいのかを考えていけばよいのではないかと思う。
この本は男性向けに書かれている。上梓の時期を見れば、ビジネスが男だけの世界であるという意識で著者はこの本を書いているのではないと思う。女性は、女性誌やファッション誌などで服装やマナーに接する機会があるが、男性はそのような機会に恵まれていないからではないかと思う。
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『7つの習慣 : 成功には原則があった! 』

スティーブン・R・コヴィー著; ジェームス・スキナー, 川西茂訳 キング・ベアー出版 1996年
漫画の解説書が出ている位、極めて著名な本である。
7つの習慣とは次のものである。
 (1)主体性を発揮する
 (2)目的をもって始める
 (3)重要事項を優先する
 (4)Win-Winを考える
 (5)理解してから理解される
 (6)相乗効果を発揮する
 (7)刃を研ぐ
(4)は思いつかなかったが、その他は、まったくもってその通りなのだと思う。(歳を重ねれば誰でも似たような結論に至ると思う)。
以下はこの本を読んでいて気になった点。
人間の四つの独特な特性。
(1)自覚、(2)想像力、(3)良心、(4)自由意志
人間の四つの能力。
(1)肉体、(2)社会・情緒、(3)精神、(4)知性
7つだ、四つだと数字の好きな著者であるが、これも分類軸がよくわからない分類である。まあ、いずれも人間に備わった性質ではあり、知っておいて損はないだろう。
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『下町ロケット』

池井戸潤著 小学館 2010.11
第145回直木賞受賞作である。
直木賞を受賞した作品なのであるから、話としては十分に面白いが、著者は中小企業の実態をよく調べて書いてあり、以下の点はこれから社会に出ようとする学生に大いに参考になると考える。
 ・元請けから突然契約を打ち切られ、資金繰りに奔走する姿
 ・仕事の企画たてること。特に会社の戦略立案に関すること
 ・仕事で如何にチームが大事か、そのとりまとめが如何に難しいか
 ・リーダーの役割がどのようであり、如何に仕事に影響するか
 ・会社内の人間関係
実際の仕事ではこの小説のようにうまく回ってくれることは少ないと思うが、考え方、困難への処し方は大いに参考になると思う。
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『人生が変わる読書術 : 本物の知識と教養がグングン身に付く』

吉田裕子著 枻出版 2014.11
本を読まない人のための本であるから、文字は少なめで図を使って書いてある。苦も無く(かどうかはよくわからないが)読むことができると思う。
本書には、読書のメリット、読書の技法、推薦図書などが書かれており、本を読まない学生に一歩踏み出せるにはいい本ではないかと思う。
ちなみに、著者は東大出の塾講師であるという。
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『大人の文章術 : 人を動かす言葉の力は書く順番で9割決まる!!』

吉田裕子著 枻出版社 2013.11
人生が変わる読書術の著者の著作である。少々校正が荒っぽい気もするが、慣用句、漢字のところは辞書的に利用できるかも。
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『マッキンゼー流入社1年目問題解決の教科書』

大嶋翔誉著 ソフトバンククリエイティブ 2013.4
マッキンゼーでは入社して3~5年で独立するか他社に移るのだそうであるが、それができるのは、入社時に問題把握、分析、仮説検証を徹底的に叩き込まれるからだという。この本はその概略(エッセンス?)が書かれている。
内容的にはそれほど目新しいものではなく、なぜを繰り返す、フレームワークを使う、仮説検証を徹底する、というものである。
ここで書かれていることで、「リサーチは原典にあたれ」という文言は意味がある。インターネットが発達し、情報が手軽に入手できる現在、多くの人がインターネットにある情報を真だとして、利用している。この「原典にあたれ」という言葉は、現代だからこそ、座右の銘としていいのではないだろうか。
この人の文章はやたら体言止めが多い。体言止めは、ちょっと注意を喚起するときには有効であるが、多用すると幼稚な印象を受ける。マッキンゼーにいたほどの人がどんな意図で体言止めを多用しているのだろうか。
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『使える『徒然草』』

齋藤孝著 PHP研究所 2005.3 (PHP新書)
私は語学が好きで、国語、漢文、英語が得意であった。ただどういう訳か古文自体は好きなのだが、古文は余り得意でなかった(いい点が取れなかった)。
徒然草は、枕草子と並ぶ高校漢文の双璧である。不得意ながら徒然草は好きな作品であった。
内容は、徒然草を題材とした、著者(齋藤孝)の処世訓であると思う。やりたいことはすぐ取り掛かれ、まねることで上達する、勝とうと思うな負けないようにしろ、孤独を技にして自らを深める、等、ちょっといいことが書いてある。
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『北越雪譜』

鈴木牧之著, 岡田武松校訂 岩波書店 1991.12(ワイド版岩波文庫)1935年、岩波文庫
その存在は知っていて、ずっと気になっていた本であるが、ついぞ手に取ることがなかった本である。固く暗い本かと思っていたが、思いのほか面白く、どんどん読み進んだ。とはいっても江戸時代(天保年間)に書かれた本であり、旧仮名遣いどころか、古文である。すらすらと読み進んだわけではない。かなりの時間がかかった(2か月ほど)。高校時代に習った古文の知識が大いに役立った。こんなところで役立つとは思っていなかった。知識というものは大事であると、日ごろ学生にはいっているが、私自身が再認識した。ただし、読み進む速度は英文と同じくらいかなと読み終わって感じている。
本書に書かれていることは、雪国の暮らし、特に雪のある時の暮らしぶり、その地(越後塩沢)に伝わる伝承、噂話など、興味深いものであった。今年(2015年)3月に魚沼、南魚沼をドライブする機会があったが、その雪の深さに驚かされた。これが1月2月であればさぞ大変だろうと思われたが、この本を読んでその印象をより深くした。
この本に書かれていることは、現代とあまり変わりがないもの、現代では見聞きされなくなったものなどがある。その点も大変に興味深い。<br /><br />
この本には、4種類の文体がある。漢文(京山百樹の前書き)、古文(牧之の本文)、旧仮名遣いの後書き(校訂者の前田武松)、現代仮名遣いの文(解説者前田勝美の文)ヒエログリフではないが、比べてみるとなかなか面白い。
活字版は岩波文庫が最初であるようであるが、この本はワイド判で少し字が大きくなっている。
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