学生に薦める本 2015年版

小片 章子(情報センター課)

『新潟日報の168時間 : 中越地震と新聞発行の記録』

新潟日報社編 新潟日報社 2005.10

『6枚の壁新聞 : 石巻日日新聞・東日本大震災後7日間の記録』

石巻日日新聞社編 角川マガジンズ 2011.7
「新潟日報の168時間」は、2004年中越大地震の後の1週間の新潟日報社のドキュメントである。
情報を求める被災者に新聞を届けるために新潟日報社の記者・社員が使命と覚悟を胸に奔走した震災後1週間の活動を時系列にまとめた記録である。
「6枚の壁新聞 」は、石巻日日新聞社の記者自身が被災者でもある状況下で、家族の安否や自宅の被害状況も不明の状態で取材に走り、手書きの壁新聞を避難所に届けた記録である。
インターネットでニュースを読む事が日常になって久しい。電力が供給されている限りニュースは発信され、私たち読者はデバイスを選択していつでも何処でも読むことができる。
一方、新聞は印刷体という物理的な存在であるため、印刷機が動き、刷り上がった新聞の運搬路が確保されなければ読者の元に届かない。非常時にはそれが取材以上に困難なことだということをこの2作を読んで改めて知った。
私にとって新聞は不思議な存在である。新聞を広げると、どんな時でもその瞬間は「日常生活」に戻っている気がする。非日常な日々を強いられている被災者が、いつもの新聞を手にした時、一瞬でも安堵の気持ちを味わったのではないだろうか。
新聞は、デジタル情報とうまく共存して、ソウルフードのように長く継承されてゆくに違いない。
[OPAC]
[OPAC]

『チームラボって何者? : 日本美術史に新たなページを加える最先端アート集団の思考と作品』

鈴木芳雄, 藤原えりみ編集&文 マガジンハウス 2013.12
「チームラボ」は、東京大学の同級生であった猪子寿之氏と青木俊介氏が設立したベンチャー企業である。というより、ウルトラテクノロジスト集団という方の方が相応しいだろう。
本書は、「チームラボ」の活動や作品を紹介し、その世界観、思考などを分析し、紐解いている。
きっと皆さんもNHKの大河ドラマ「花燃ゆ」のタイトルバックやCMの「憑依する滝」、江戸時代の絵師、伊藤若冲の屏風絵をデジタル技術で再創作した「Nirvana」(真正面を向いた白い像が印象的)など、どこかで目にしたことがあるはずである。
彼らは、現在開催中のミラノ万博はじめ、国内外で展覧会を開催し、今年の5月まで日本科学館で開催された「チームラボ踊る!アート展と学ぶ!未来の遊園地」」は、開期を延長するほどの集客であった。
実際行ってみたが、インタラクティブ・アートって楽しい!!時間を忘れてしまうほど楽しい展覧会であった。この夏、新潟の県立自然科学館にも巡回するので、皆さんもぜひ行ってみて欲しい。
「チームラボ」は、卓越した技術力と知識で日本美術の再構築と新しい方向性の体現を試みている。というと独善的で不遜な印象を与えるが、彼らの活動の根底に日本美術の先達への憧れと尊敬、日本文化への共感が溢れていて、それがデジタルアートに縁のない私の世代でも共感できる要因になっている。
「スーパーマリオ」や「ドラゴンクエスト」などのゲームには、近代以前の日本美術の特徴が現れているそうで、常に前方に視点がある西洋的な遠近法至上主義ではなく、横スクロールで風景があらわれる手法は日本の絵巻物の現代版のようなもの、だそうだ。そういえば、浮世絵も遠近法を完全に無視しているところが日本的だ。
本学のホームページの情報文化学部紹介に「コンピュータの知識や技術を習得するとともに、社会・経済の発展や人々の豊かさに貢献する方法を学びます」と記載されているが、その意味が本書を読んだ今では、よく理解できる。
「情報システム」の可能性は無限である。「チームラボ」のようなウルトラテクノロジストが本学から誕生する日を待っている。
[OPAC]