学生に薦める本 2020年版

堀川 祐里

 今年度の学生に薦める本の原稿に着手し始めた2月には、別の本をお薦めする予定で準備をしていましたが、この春の日本の社会状況を見ている中で、今年度ご紹介する本は違うものに変えることにしました。3冊に共通するテーマは「貧困」です。
 私の専門は経済学ですが、もう少し細かな分類をすると、社会政策という学問です。社会政策は、日本に初めて経済学が輸入されてきたころに学ばれていた、日本で最も古い経済学と言われています。現在の経済学においては、数学的なアプローチをとる近代経済学が主流になってきていますが、社会政策は実は最も伝統的な経済学なのです。
 社会政策が日本に輸入されてきた明治時代、この学問は学者だけではなく、官僚たちも一緒に学会を行って議論がなされていました。みなさんも高校生までに学んできたように、明治時代の日本は、産業革命を成し遂げ、「富国強兵」、「殖産興業」のスローガンを掲げて、欧米列強に追い付け追い越せを目指していました。でも、そのような華々しい一面の一方で、当時の日本には貧困に苦しむ人々も生まれていたのです。誰かに雇われて働く「労働者」が生まれると、世界には「貧困」の問題が出てきます。
 ……この続きは、後期の日本経済論、日本経済史、社会福祉論の中でみんなで一緒に学ぶとして、コロナウイルス感染症対策による日本経済への影響を「貧困」の観点から考えるために、道しるべとなる3冊をご紹介しましょう。

 コロナウイルス感染症対策による日本経済への大きな影響について議論し、政策について考えるのはとても難しいことだと感じる人も多いでしょう。でも、まずは自分の身近に起きた変化から、ひとりひとりが能動的に考え始めることが重要です。日本が大きな変化を迎える2020年に、みなさんとともに日本経済について学べることをとても楽しみにしています。

『現代の貧困 ワーキングプア/ホームレス/生活保護』

岩田正美 ちくま新書 2007年

 この図書は、今年度の新入生に課題として出された「基礎ゼミナール<読書・映画>課題2020」での私の推薦図書の1冊として推薦した本でもあります。この本では、貧困は「発見」また「再発見」されるものであることを強調しています。貧困問題は、見ようとしなければ見えない問題なのです。
[OPAC]

『脱貧困の社会保障』

唐鎌直義 旬報社 2012年

 さて、貧困が世界で初めて「発見」そして「再発見」されたのは、どこの国だったでしょうか?答えはイギリスです。みなさんも良く知っているように、イギリスは世界で最初に産業革命を成し遂げた国です。そのため、イギリスは社会政策の歴史、貧困の歴史においても、世界のフロントランナーなのです。この本では、そのイギリスの貧困の歴史が読み解かれるとともに、社会保障とはいかなるものなのか、初学者向けに記されています。
 特に、第13章の社会保障の財源に関する考察は、みなさんに良く学び考えてほしい論点です。マスメディアのニュースでは、財源は私たち国民が負担するのか、国が負担するのか、の二項対立で議論されていますが、先進諸国の議論と相対化すると、日本では議論のアクターが1つ抜けています。社会保障の財源について議論をするためには、あと1つ、誰に議論に入ってもらわなければいけないか、考えてみましょう。
[OPAC]

『貧困を救えない国 日本』

阿部彩、鈴木大介 PHP新書 2018年

 この本は、子どもの貧困問題の著名な研究者である阿部彩さんと、『最貧困女子』などの著者である鈴木大介さんの対談がまとめられた書籍です。直近の日本における貧困についての議論を学ぶことができます。日本で貧困問題について考えるとき、「相対的貧困」という概念をおさえることの重要性が理解できる1冊です。ジェンダー視点から考えた貧困問題についての考察や、メディアリテラシーに関する指摘はとても興味深いものです。
[OPAC]