学生に薦める本 2021年版

小林 伊織

『Southeast Asia: An Introductory History, 13th Edition』

Milton Osborne Allen & Unwin 2021年
With latest updates, the 13th edition of this 1979 classic is still one of the best gateways to the mesmerizing world of Southeast Asia. In fact, it was one of the required pre-sessional readings when I entered university back in 1992! It starts with a fundamental question: What is Southeast Asia? It is always useful to remind ourselves how little regard we have of this critically important region. In the current situation in which the “new cold war” between China and the United States is said to be intensifying, the importance of those countries is only likely to increase. And understanding Southeast Asia in English, the common language of the region, will undoubtedly give you a competitive edge.
[OPAC]

『台湾総統選挙』

小笠原欣幸 晃洋書房 2019年
小説のように読める学術書。もともと権威主義だった台湾の、人々の血と汗によって実った民主主義は成熟し、政権交代も複数回行われ、気に入らない相手勢力の、屋外ライブのような大規模集会やデモも尊重するのが当たり前となっている。根本的なアイデンティティについて、互いに相容れない価値観を持った勢力が対立しているのに、社会は安定を保っている。人々が自発的に協力した結果、コロナ対策も成功している。こんな台湾が、近隣の権威主義の政権にとって、目の上のたんこぶなのはうなづける。そのような政権にとっては、台湾をあらゆる国際組織から排除し、台湾の民主を破滅に導くことが、自身の存続の鍵となっている。投票率8割以上は当たり前の「民主の祭典」・台湾総統選挙の歩みがわかるこの本で、「本省人 vs. 外省人」とか、「親日 vs. 反日」といった過度に単純化された台湾理解から脱却したい。
[OPAC]
【納入待】

『フィリピン流 幸せに生きるコツ』

山本雅子 フリープレス 2019年
 私は高校を卒業してから本学に着任するまで23年間、ずっと海外で生活しましたが、その中でもフィリピンで生活した3年は私の人生観を大きく変えました。フィリピンで学んだことは主に三つあります。一つは自分でコントロールできないことのために心配するのをやめて微笑むこと。二つ目はフィリピンの「豊かな」教育。そしてもう一つは、現場主義、つまり現地の状況は、できる限りその状況に近いところで解決を試みることです。この本を読んで、何度も「あるある!」となり、定期的にフィリピンに活きる力の充電に行くことの重要性を改めて認識しました。
 フィリピンで生活すると、毎日予期しないことが多く起こり、綿密に何かを計画しても、そのとおりに行くことはあまりありません。それどころか、命を脅かす状況さえありえます。ところが、どんなに大変な状況になっても、フィリピンの人々は、一人ひとりを絶対的に愛してくださっている神への信頼が根本にあるため、微笑みを絶やしません。この生き方は、生かされていることへの感謝が忍耐を生み、それが幸せに直結していることを私に悟らせました。信仰があれば貧困でもいいと言っているのではありません。経済的に豊かな社会でも、人生を取り巻く様々な状況が自分でコントロールできず、それがストレスを生みうることは究極的に変わりません。
 私はフィリピンの各レベルの教育に触れて、一人ひとりを大切にする教育だと感じました。設備などの物質的資源では遠く日本に及びませんが、生徒一人ひとりが、自分が愛されていると感じ、なので自分は尊い価値があるということがわかっています。こうして初めて、他人の幸福を常に優先し、その延長として自国を愛する習慣がついたのだと思います。自分が他人にどう見られているかにはフォーカスしません。神の目にどう見られているのかが重要だからです。そして、その神は一人ひとりを無限に愛していることを、教育を通じて子どもたちが感じるのでしょう。
 また、困難に直面する人々を助けようとするとき、まず現地の人々に会って状況を直接把握し、できるだけ直接助けを届けることの重要性を学びました。本書にも、現地当局者などに頼った結果、海外から大量に届けられた物資が港に山積みになっていたり、商店で転売されていたエピソードが出ています。(受け取りの窓口となった機関の関係者の腐敗した関係者が暴利を貪った、というか、必要としているところが把握できず、そこに届けられないまま無駄にするより、転売したほうがいい、ということになった可能性があります。)経済的に恵まれた私たちは、「善行」をしたという自己満足に陥ることなく、相手と生身の人間同士として出会い、継続的に関わることが重要です。