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学生に薦める本 2021年版
堀川 祐里
今年度の学生に薦める本は、ふたつのテーマから推薦したいと思います。ひとつは、昨年度から引き続き、「貧困」に関する書籍たち、もうひとつは、「性」に関する書籍たちです。
『現代の貧困 ワーキングプア/ホームレス/生活保護』
- 岩田正美 ちくま新書 2007年
『脱貧困の社会保障』
- 唐鎌直義 旬報社 2012年
『貧困を救えない国 日本』
- 阿部彩・鈴木大介 PHP新書 2018年
『大学生の学びをつくる ハタチまでに知っておきたい性のこと』
- 橋本紀子・田代美江子・関口久志 大月書店 2014年
- 【入手困難】
『恋人とつくる明日 育て合う安心と信頼のための9章』
- 村瀬幸浩 十月舎 2012年
『検証 七生養護学校事件 性教育攻撃と教員大量処分の真実』
- 金崎満 群青社 2005年
『性教育裁判 七生養護学校事件が残したもの』
- 児玉勇二 岩波書店(岩波ブックレットNo.765) 2009年
- 【入手困難】
『国際セクシュアリティ教育ガイダンス 教育・福祉・医療・保健現場で活かすために』
- UNESCO編(浅井春夫/艮香織/田代美江子/渡辺大輔 訳) 明石書店 2017年
『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】 科学的根拠に基づいたアプローチ』
- ユネスコ編(浅井春夫/艮香織/田代美江子/福田和子/渡辺大輔 訳) 明石書店 2020年
テーマ② 性
みなさんは3月8日が何の日か知っていますか?答えは国際女性デーです。今年の国際女性デー、日本では「生理の貧困」が話題になりました。薦める本のテーマ①にも関連しますが、貧困のために、月経用のナプキンが買えない、という女性がいることが問題視されたのです。イギリス、フランス、ニュージーランドなどに倣って、日本でも東京都豊島区や兵庫県明石市で月経用ナプキンの無料配布が始まることになりました。実のところ、私も自分が大学生の頃にこのようなことを構想してみたりしたこともありましたが、その当時は大人に話しても相手にもされないようなことでした。
今、学生生活を送るみなさんにとって、ジェンダーはとても身近な言葉になっていると思います。ただし、ほんの20年前の日本では大いなるバッシングを受けていたテーマであり、ある意味でとても勇気のある人しか勉強しないテーマだったことをみなさんは知っているでしょうか。
2000年代の初めは、ジェンダーについての研究や、性について学ぶ機会である性教育に対して激しいバッシングがありました。様々な人々の手で育てられつつあった多様な性教育の実践は、政治的な介入から、ぱたりとおこなうことが出来なくなってしまいました。それから現在までの20年弱の間に、グローバル視点からみれば性教育は大きな発展を遂げましたが、我々日本人はその発展から取り残されていたと言えます。
性について学ぶことは、人権について学ぶことだと私は考えます。 性に関する安心や安全が保障されることは、人間に与えられている平等な権利だと思います。みなさんには大学生になったこの機会に性について学び、そこから人権について考えてみてほしいと思います。性教育は何歳からでも遅くはありません。
ここではそのきっかけになりそうな書籍たちをご紹介しましょう。
◆『大学生の学びをつくる ハタチまでに知っておきたい性のこと』
今まさに大学生であるみなさんに知っておいてほしい、性の基礎知識についてまとめられた1冊です。小学生や中学生で習ったようでも、意外に知らない月経や射精などの身体のしくみ、性の多様性、また、デートDVなどの大学生にも起こりうるトラブルなど、大学生が知っておかなければいけない性の基礎知識について書かれています。是非、性教育の入り口として手に取ってみてください。
◆『恋人とつくる明日 育て合う安心と信頼のための9章』
恋愛について、性教育の立場から考えられた書籍です。著者は元・一橋大学講師である村瀬幸浩先生。私は大学生のときに村瀬先生の講演を拝聴して、「性教育を学びたい!」とい思いました。恋愛ってどんなものか、性感染症、妊娠、出産、結婚などについて、村瀬先生が大学でおこなった講義の内容をベースに、大学生の声などもたくさん収録された読みやすい1冊です。
◆『検証 七生養護学校事件 性教育攻撃と教員大量処分の真実』
◆『性教育裁判 七生養護学校事件が残したもの』
2000年代の初めには性教育に対するバッシングがあった、と先ほど書きましたが、そのきっかけともいえる事件が、「七生養護学校事件」です。知的障害をもつ子どもを対象とした養護学校で、子どもたちのために作り上げられてきた性教育の実践が、東京都議会議員や東京都教育委員会の不当支配によって壊された事件でした。都議や都教委、東京都、産経新聞社を相手におこなわれたこの裁判は「こころとからだの学習」裁判(「ここから」裁判)とも呼ばれ、原告側(七生養護学校教員など)の勝訴が確定したのは2013年のことです。バッシングはどのように生まれたのか、政治的介入によって、教育にどんな影響があったのか、初学者にもわかりやすく解説されています。
◆『国際セクシュアリティ教育ガイダンス 教育・福祉・医療・保健現場で活かすために』
◆『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】 科学的根拠に基づいたアプローチ』
2009年にユネスコ等の国際機関から「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の初版が発表されました。日本で暮らす人の多くがイメージするような狭い意味での性教育ではない「包括的性教育」や「セクシュアリティ教育」の必要性について理解できる1冊です。みなさんには、是非、国際的なセクシュアリティ教育の水準を知ってほしいと思います。
性の課題というと、現在の日本ではセクシュアル・マイノリティ(LGBTQIA+などとも表されますが、その表現は当事者から見ると好まれないこともあることを知っていますか?)に関することが筆頭に挙げられるような気がします。直近では、同性婚に関する裁判に進展がありました。ただし、それはもちろんですが、たとえば、そもそも恋愛について考えること(彼氏や彼女は絶対にいなければならないか)、リプロダクティブ・ヘルスに関すること(たとえば女性の月経にまつわる健康のこと)、性暴力の問題(フラワーデモを知っていますか?)などなど、ジェンダーについても、セクシュアリティについても、大人になるまでに知っておかなければいけない性に関する知識や考え方はたくさんあるのです。みなさん、是非この機会に改めて性について学んでみてはいかがでしょうか?
みなさんは3月8日が何の日か知っていますか?答えは国際女性デーです。今年の国際女性デー、日本では「生理の貧困」が話題になりました。薦める本のテーマ①にも関連しますが、貧困のために、月経用のナプキンが買えない、という女性がいることが問題視されたのです。イギリス、フランス、ニュージーランドなどに倣って、日本でも東京都豊島区や兵庫県明石市で月経用ナプキンの無料配布が始まることになりました。実のところ、私も自分が大学生の頃にこのようなことを構想してみたりしたこともありましたが、その当時は大人に話しても相手にもされないようなことでした。
今、学生生活を送るみなさんにとって、ジェンダーはとても身近な言葉になっていると思います。ただし、ほんの20年前の日本では大いなるバッシングを受けていたテーマであり、ある意味でとても勇気のある人しか勉強しないテーマだったことをみなさんは知っているでしょうか。
2000年代の初めは、ジェンダーについての研究や、性について学ぶ機会である性教育に対して激しいバッシングがありました。様々な人々の手で育てられつつあった多様な性教育の実践は、政治的な介入から、ぱたりとおこなうことが出来なくなってしまいました。それから現在までの20年弱の間に、グローバル視点からみれば性教育は大きな発展を遂げましたが、我々日本人はその発展から取り残されていたと言えます。
性について学ぶことは、人権について学ぶことだと私は考えます。 性に関する安心や安全が保障されることは、人間に与えられている平等な権利だと思います。みなさんには大学生になったこの機会に性について学び、そこから人権について考えてみてほしいと思います。性教育は何歳からでも遅くはありません。
ここではそのきっかけになりそうな書籍たちをご紹介しましょう。
◆『大学生の学びをつくる ハタチまでに知っておきたい性のこと』
今まさに大学生であるみなさんに知っておいてほしい、性の基礎知識についてまとめられた1冊です。小学生や中学生で習ったようでも、意外に知らない月経や射精などの身体のしくみ、性の多様性、また、デートDVなどの大学生にも起こりうるトラブルなど、大学生が知っておかなければいけない性の基礎知識について書かれています。是非、性教育の入り口として手に取ってみてください。
◆『恋人とつくる明日 育て合う安心と信頼のための9章』
恋愛について、性教育の立場から考えられた書籍です。著者は元・一橋大学講師である村瀬幸浩先生。私は大学生のときに村瀬先生の講演を拝聴して、「性教育を学びたい!」とい思いました。恋愛ってどんなものか、性感染症、妊娠、出産、結婚などについて、村瀬先生が大学でおこなった講義の内容をベースに、大学生の声などもたくさん収録された読みやすい1冊です。
◆『検証 七生養護学校事件 性教育攻撃と教員大量処分の真実』
◆『性教育裁判 七生養護学校事件が残したもの』
2000年代の初めには性教育に対するバッシングがあった、と先ほど書きましたが、そのきっかけともいえる事件が、「七生養護学校事件」です。知的障害をもつ子どもを対象とした養護学校で、子どもたちのために作り上げられてきた性教育の実践が、東京都議会議員や東京都教育委員会の不当支配によって壊された事件でした。都議や都教委、東京都、産経新聞社を相手におこなわれたこの裁判は「こころとからだの学習」裁判(「ここから」裁判)とも呼ばれ、原告側(七生養護学校教員など)の勝訴が確定したのは2013年のことです。バッシングはどのように生まれたのか、政治的介入によって、教育にどんな影響があったのか、初学者にもわかりやすく解説されています。
◆『国際セクシュアリティ教育ガイダンス 教育・福祉・医療・保健現場で活かすために』
◆『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】 科学的根拠に基づいたアプローチ』
2009年にユネスコ等の国際機関から「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の初版が発表されました。日本で暮らす人の多くがイメージするような狭い意味での性教育ではない「包括的性教育」や「セクシュアリティ教育」の必要性について理解できる1冊です。みなさんには、是非、国際的なセクシュアリティ教育の水準を知ってほしいと思います。
性の課題というと、現在の日本ではセクシュアル・マイノリティ(LGBTQIA+などとも表されますが、その表現は当事者から見ると好まれないこともあることを知っていますか?)に関することが筆頭に挙げられるような気がします。直近では、同性婚に関する裁判に進展がありました。ただし、それはもちろんですが、たとえば、そもそも恋愛について考えること(彼氏や彼女は絶対にいなければならないか)、リプロダクティブ・ヘルスに関すること(たとえば女性の月経にまつわる健康のこと)、性暴力の問題(フラワーデモを知っていますか?)などなど、ジェンダーについても、セクシュアリティについても、大人になるまでに知っておかなければいけない性に関する知識や考え方はたくさんあるのです。みなさん、是非この機会に改めて性について学んでみてはいかがでしょうか?
私の専門は経済学ですが、もう少し細かな分類をすると、社会政策という学問です。社会政策は、日本に初めて経済学が輸入されてきたころに学ばれていた、日本で最も古い経済学と言われています。現在の経済学においては、数学的なアプローチをとる近代経済学が主流になってきていますが、社会政策は実は最も伝統的な経済学なのです。
社会政策が日本に輸入されてきた明治時代、この学問は学者だけではなく、官僚たちも一緒に学会をおこなって、これからの日本の労働環境をどのようにしたら良いか、議論がなされていました。みなさんも高校生までに学んできたように、明治時代の日本は、産業革命を成し遂げ、「富国強兵」、「殖産興業」のスローガンを掲げて、欧米列強に追い付け追い越せを目指していました。でも、そのような華々しい一面の一方で、当時の日本には貧困に苦しむ人々も生まれていたのです。誰かに雇われて働く「労働者」が生まれると、世界には「貧困」の問題が出てきます。
……この続きは、後期の日本経済論、社会福祉論の中でみんなと一緒に学ぶとして、新型コロナウイルス感染症対策による日本経済への影響を「貧困」の観点から考えるために、道しるべとなる3冊をご紹介しましょう。
◆『現代の貧困 ワーキングプア/ホームレス/生活保護』
この図書は、新入生の入学前教育での課題図書に、私の推薦図書の1冊として推薦した本でもあります。この本では、貧困は「発見」また「再発見」されるものであることを強調しています。貧困問題は、見ようとしなければ見えない問題なのです。それは現代の日本でももちろん同じです。
◆『脱貧困の社会保障』
さて、貧困が世界で初めて「発見」そして「再発見」されたのは、どこの国だったでしょうか?答えはイギリスです。みなさんも良く知っているように、イギリスは世界で最初に産業革命を成し遂げた国です。そのため、イギリスは社会政策の歴史、貧困の歴史においても、世界のフロントランナーなのです。この本では、そのイギリスの貧困の歴史が読み解かれるとともに、社会保障とはいかなるものなのか、初学者向けに記されています。
特に、第13章の社会保障の財源に関する考察は、みなさんに良く学び考えてほしい論点です。マスメディアのニュースでは、財源は私たち国民が負担するのか、国が負担するのか、の二項対立で議論されていますが、先進諸国の議論と相対化すると、日本では議論のアクターが1つ抜けています。社会保障の財源について議論をするためには、あと1つ、誰に議論に入ってもらわなければいけないか、考えてみましょう。
◆『貧困を救えない国 日本』
この本は、子どもの貧困問題の著名な研究者である阿部彩さんと、『最貧困女子』などの著者である鈴木大介さんの対談がまとめられた書籍です。直近の日本における貧困についての議論を学ぶことができます。日本で貧困問題について考えるとき、「相対的貧困」という概念をおさえることの重要性が理解できる1冊です。ジェンダー視点から考えた貧困問題についての考察や、メディアリテラシーに関する指摘はとても興味深いものです。
コロナウイルス感染症対策による日本経済への大きな影響について議論し、政策について考えるのはとても難しいことだと感じる人も多いでしょう。でも、まずは自分の身近に起きた変化から、ひとりひとりが能動的に考え始めることが重要です。日本が大きな変化を経験している2021年に、みなさんとともに日本経済について学べることをとても楽しみにしています。