学生に薦める本 2021年版

佐藤 陸斗(学務課)

『希望が死んだ夜に』

天祢涼 文春文庫 2017年
 同級生を殺害した容疑で逮捕された中学生の少女。動機を語ろうとしない少女に対して、真相を究明する刑事。物語が進むにつれて、事件に至るまでの経緯が明らかになっていくが、それと伴に少女の片親や毒親、生活保護等からなる様々な貧困問題も明るみになっていく。
 展開が次々と変わっていくジェットコースターのようなミステリー。不幸が循環するその環境の中で、描写されている“青春”と“友情”。そして読後は本のタイトルにきっと切なくなってしまう。

 日本の子どもが抱える貧困問題の現実と、その中でも必死に生きる子どもから希望が奪われていく様子に胸が締め付けられるような思いがしました。この物語はフィクションですが、実際に起こっている深刻な貧困という社会問題について深く考えさせられるものです。
[OPAC]

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』

青柳碧人 双葉社 2019年
 誰もがよく知っている昔話をミステリーのテーマで読み解いている5つの作品から構成される作品集です。
 各話に様々なジャンルのミステリー要素が加わっていますが、世界観は壊されていないのが不思議です。昔話の登場人物が、私たちがイメージするような素朴なものではなく、より深い感情や欲望まで色々な角度から描かれているので、昔話の世界を裏側から見ているような新鮮な着眼点と斬新な展開が印象的でした。それぞれの昔話の内容を基にしてミステリーに仕立てているため、取っ付きやすいですし、テンポが良く一気に読めてしまいます。
[OPAC]