学生に薦める本 2017年版

小宮山 智志

『3月のライオン』(1)~(9)

羽海野 チカ 白泉社(ジェッツコミックス) 2008~2013
 いよいよ実写映画化が公開されますね(公開日の前日にこの原稿を書いています)。桐山零は神木隆之介が演じます。楽しみです。主人公は中学生で将棋のプロ(棋士)になりますが、学校では、ずっと溶け込めていません。彼が将棋の世界で、日常で、学校で、周りの人との接し方がどのように変わっていくのか、そして周りがどのように変わっていくのか、ぜひじっくりお読みください。主人公がお世話になっている近所の家の娘さんが、学校でいじめにあいます。このあたりの心理描写がとても良いので、ぜひ9巻までお読みください。
[OPAC]

『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か』

平田オリザ 講談社現代新書 2012
 「価値観がバラバラなまま、どうやってうまくやっていくか」について論じられている本です。成長していく社会の中では、みな同じ方向を向いて協調していくことが求められてきました。しかし社会が成熟することで、バラバラなままで生きていくコミュニケーション能力、“対話”する力が必要になるというお話です。“対話”とはお互いに変わっていくことです。ぜひ3月のライオンの後にぜひお読みください。
[OPAC]

『サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福』(上・下)

ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 柴田裕之 (翻訳) 河出書房新社 2016
 歴史の本ですが、社会学や自然科学に及ぶ広範な知識から、人類の3つの大きな変化に着目して人間の行動の歴史的進化を捉えようとしています。私たちはどうして非常に多くの見知らぬ人々と協力が可能になったのか(認知革命)、狩猟採集社会から農耕牧畜社会に変化して私たちは何が変わったのか(農業革命:狩猟採集社会のころは動植物は「対等の存在」だったのが、農耕・牧畜社会になり「物言わぬ舞台装置」になりさがった! 宮崎駿の『もののけ姫』ですね)、ヨーロッパの帝国主義のもとで科学は飛躍的に発展したのか(科学革命)などの興味深い謎に挑んでいます。そして生物工学やサイボーグ工学(押井守の『攻殻機動隊』ですね)が発達する未来について語っています。情報化・国際化について考える私たちに、新しい仮説を構築するのに必要な、多くのそして興味深い材料を提供してくれる本です。ちょっと長いですが、とても読みやすいので、ぜひ手に取ってみてください。
[OPAC]

『村上海賊の娘』(上・下)

和田竜 新潮社 2013
 JOYの推薦図書にあげた『忍びの国』と同じ作者の小説です。和田竜の作品は他にやはり映画化された『のぼうの城』(本学図書館に所蔵)があります。3作品とも絶望的な状況から、創意工夫で立ち向かう痛快さ、そして丹念に史料をあたり歴史をもとにフィクションを作り上げているので「もしかしたらほんとうにこんなことがあったのかも」という気にさせる面白さがあります。主人公がいままでの島の暮らしとは全くことなる価値観の世界で、どう舞い上がり、どう打ちのめされ、そして、どう決断するのか。主人公が、そして周りがどのように変化していったのか、ぜひ楽しんで読んでください。
[OPAC]